暖房を入れているのに足元が寒い。設定温度を上げてもよくならない。エントランスや体育館、工場、吹抜けのある執務室で、毎年冬に出てくる相談です。多くの場合、熱が足りていないのではありません。暖めた熱が、人のいない高さに溜まっているのです。

暖気は上へ行き、そこに留まる

暖かい空気は周囲より軽いため上昇し、天井付近にたまります。上下で温度が層になるこの状態を温度成層と呼びます。天井が高い空間ほど、また暖房時間が長いほど、はっきり現れます。

やっかいなのは、天井から吹き出す方式の空調です。冷房時は冷気が自然に降りてくるので都合がよいのですが、暖房時は同じ浮力が逆に働き、温風が吹出口付近を漂って居住域まで降りてきません。

その温度差は、数字に出てこない

建築物衛生法(ビル管法)の空気環境測定は、居室の中央部の床上75cm以上150cm以下の位置で行うと定められています。天井付近は測りません。つまり、測定点で18〜28℃の基準に適合していても、足元は寒く天井付近は暑い、という状態は成立します。

省エネ計算も同じで、室を単位として評価するため、同じ室の中で熱がどこに偏っているかまでは表れません。室温を検知して運転を止めるサーモスタットが壁の高い位置にあれば、天井側の暖気を拾って暖房を早めに止めてしまうこともあります。

そして上下温度差は、快適性だけの問題ではありません。天井付近が暖かいほど屋根や最上階天井の内外温度差が大きくなり、そこから逃げる熱も増えます。人のいない高さを暖め、その熱を屋根から捨てている構図です。

打てる手は、設定温度より先にある

空気をかき混ぜる。 シーリングファンや循環送風機で天井付近の暖気を降ろすのが、最も費用対効果の高い対策です。ただし居室の気流は0.5m/秒以下という管理基準があり、足元に直接風を当てるとドラフト感で「かえって寒い」になります。天井へ向けて弱く回し、壁づたいに循環させるのが基本です。

吹出しの設定を確かめる。 暖房時は吹出し角度を下向きに。省エネのつもりで風量を絞ると、かえって温風が届かなくなります。竣工時の設定のまま何年も運転しているケースは珍しくありません。

空間の使い方を見直す。 高天井の全体を暖めきるのは不利です。人がいる範囲を放射式のヒーターやパネルで直接暖める、吹抜けと居住域をゆるく区切る、といった割り切りが効きます。床暖房や放射パネルは空気を暖めないため、そもそも上下差が生じにくい方式です。

まず、測っておく

対策の前に現状です。足元(床上10cm程度)と頭の高さ、可能なら天井付近に温度計を置き、同時に記録します。小型の温度ロガーなら一冬分のデータが取れます。その差が、暖めた熱のうちどれだけ人のいる高さに届いていないかの目安になります。

暖房シーズンが始まる前の今が、基準値の点検ではなく、実際の温度分布を知っておく時期です。


想定読者:建物オーナー、自治体の営繕・施設ご担当者、設計者、建物の運転管理に携わる方

注:本コラムは公開されている法令・技術資料に基づく概説です。個別の建物への適用は、設備の方式や用途に応じてご検討ください。

参照

  • 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/ (空気調和設備を設けている居室の温度18℃以上28℃以下〔令和4年4月1日以降〕、気流0.5m/秒以下、空気環境の測定は「通常の使用時間中に、各階ごとに、居室の中央部の床上75cm以上150cm以下の位置において」行うこと)
  • 東京都健康安全研究センター「特定建築物の衛生管理基準」:https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/k_kenchiku/bldg/kijyun/ (空気環境の管理基準値一覧、令和4年4月1日施行の改正内容〔温度17℃以上→18℃以上、一酸化炭素10ppm→6ppm〕)