CO₂濃度は基準内、換気回数の計算も満たしている。それなのに会議室の奥や什器の裏だけ、なんとなく空気がこもる感じがする――そう感じたことはないでしょうか。多くの場合、換気量が足りていないのではありません。換気の「量」を満たすことと、その空気が部屋の隅々まで「届く」ことは、別の話なのです。今回は、その隙間を埋める「空気齢」という考え方を紹介します。
換気回数は、部屋全体の平均でしかない
換気設計でまず使われる指標は換気回数です。換気量Qを室容積Vで割ったN=Q/Vという単純な数字で、設計の目安として便利な反面、これは部屋全体を均した平均値にすぎません。給気口の真下は新鮮でも、間仕切りの奥や什器の陰では空気がほとんど入れ替わっていない、ということが同じ部屋の中で同時に起こり得ます。
以前のコラムで取り上げたCO₂濃度の測定も、建築物衛生法では「居室の中央部の床上75cm以上150cm以下」の1点で行うと定められています。そこが基準内でも、部屋の隅まで基準内とは限りません。
「空気齢」という物差し
そこで使われるのが空気齢という考え方です。給気口から入った空気が、室内のある地点に到達するまでの平均時間を指します。空気齢が短い場所ほど空気は新鮮で、長い場所ほどよどんでいるとみなされます。
この空気齢をもとに、部屋の中で空気がどれだけ効率よく入れ替わっているかを表すのが換気効率です。ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)は規格129号で、トレーサガスを使って空気齢を現場で実測する手順を定めており、国内でも空気調和・衛生工学会が同様の規格(HASS102)を定めています。単純な換気回数の計算だけでは見えない、部屋の中の「ムラ」を扱うための考え方です。
見えない無駄 ― ショートサーキット
現場でとくに起きやすいのが、給気口と排気口が近すぎて、入れた外気がろくに部屋を巡らないまま排気口へ抜けてしまう「ショートサーキット」です。
これは衛生上の問題であると同時に、エネルギーの無駄でもあります。外気は冷やすにせよ温めるにせよ、処理してから室内に送り込んでいます。その空気が誰の呼吸域にも届かないまま出ていくなら、処理にかけたエネルギーはまるごと空振りです。しかも換気量を増やして対処しようとしても、経路そのものが変わらなければ、届かない場所には相変わらず届きません。
現場でできること
まず給気口と排気口は対角に配置し、近接や向かい合わせを避けます。パーティションや什器が気流の通り道を塞いでいないかも、レイアウト変更のたびに確認したい点です。特定の場所だけ息苦しいという声がある場合は、その場所にもCO₂測定点を増やしてみると、居室中央の1点だけでは見えなかった偏りが分かることがあります。手術室やクリーンルームのように換気の質が重要な施設、あるいは天井の高い大空間では、CFD解析やトレーサガス法による専門的な検証も選択肢に入ります。
外気量の数字を満たすことと、その空気が人のいる場所まで行き渡ることは、別の話です。息苦しさを感じる場所があれば、量を増やす前に、まず経路を疑ってみてください。
想定読者:建物オーナー、自治体の営繕・施設ご担当者、設計者、建物の運転管理に携わる方
注:本コラムは公開されている技術資料に基づく概説です。空気齢・換気効率の実測にはトレーサガス法など専門的な手法が必要であり、個別建物の評価は専門家にご相談ください。
参照
- 伊藤一秀(東京工芸大学)「換気効率の現場測定法 ANSI/ASHRAE 129:換気効率の測定」空気調和・衛生工学会 換気性能評価小委員会資料、2000年:http://www.arch.t-kougei.ac.jp/ito/pdf/10_2000.pdf (空気交換効率が名目換気時間÷呼吸域平均空気齢と定義されること、ANSI/ASHRAE Standard 129-1997によるトレーサガス実測法、空気調和・衛生工学会規格HASS102-1997への言及)
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/ (空気環境の測定は「居室の中央部の床上75cm以上150cm以下の位置」で行うこと)