「入居者が一日中過ごす場所だから、冷暖房は止められない。省エネのために室温を我慢させるわけにはいかない」――介護施設の経営者から、よくこうしたお話を伺います。もっともなご心配です。ですが高齢者・介護施設こそ、快適さを保ったまま光熱費を下げ、そのうえ入居者の安全までまとめて底上げできる建物です。順番を押さえれば、我慢のない省エネができます。

評価は「病院等」の区分で

建築物省エネ法では、建物を用途ごとに分けて省エネ性能を評価します。棟の主用途から標準的な建物モデルを選んで計算するモデル建物法(簡易な省エネ計算法)では、特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの福祉施設は、大きく「病院等」の区分で評価されるのが一般的です。省エネの度合いを示すBEI(設計一次エネルギー消費量を基準値で割った指標。小さいほど省エネ)も、この区分の標準的な使い方を前提に算出します。評価の対象になる設備は、空調・換気・照明・給湯・昇降機の5つです。

エネルギーの主役は、空調と給湯

介護施設は入居者が24時間過ごすため、空調と照明が長時間動き続けます。さらに、入浴・洗濯・厨房で大量のお湯を使うため、給湯の比重がオフィスなどより格段に大きいのが特徴です。まずはこの空調と給湯の二つが、効かせどころになります。

効かせる順番

最初に固めたいのは、外皮の断熱・気密と日射遮蔽です。断熱は光熱費を下げるだけでなく、居室ごとの温度ムラをなくし、冬のヒートショックや夏の熱中症といった健康リスクを抑えます。室温管理は、この施設では快適性の問題であると同時に、入居者の安全の問題でもあります。次に給湯は、ヒートポンプ給湯や、空調・厨房の排熱をお湯づくりに回す仕組みが効きます。空調は高効率機への更新に、全熱交換型の換気(捨てる空気の熱を取り込む外気に移す仕組み)を組み合わせると、換気で逃げる負荷を取り戻せます。照明はLED化と人感・明るさ制御が基本ですが、夜間の見守りや転倒防止に必要な明るさは確保したうえで調整します。

「止められない」からこそ、創エネと蓄電

24時間動き続ける施設では、停電が入居者の安全に直結します。太陽光発電と蓄電池を組み合わせれば、平常時は電気代を下げつつ、災害による停電時にも空調や給湯、必要な機器を一定時間動かし続けられます。ZEBがめざす「創エネ」は、省エネと防災を同時に満たす投資として、福祉施設と相性のよい考え方です。

省力運転という視点

慢性的な人手不足のなかで、省エネのために職員の手間を増やしては本末転倒です。BEMS(設備の使用状況を計測・可視化して制御する仕組み)で運転を自動化・最適化すれば、現場の負担を増やさずに省エネを続けられます。

まずは施設で使う電気・ガス・灯油のうち、空調と給湯がそれぞれどれくらいを占めているのか。その内訳を知ることが、費用対効果の高い一手を選ぶ出発点になります。


想定読者:高齢者・介護福祉施設を運営する経営者・施設管理者、福祉施設を手がける設計者、地域福祉や公共施設の整備に関わる自治体担当者

参照元:環境省 ZEB PORTAL「ZEBの定義」(https://www.env.go.jp/earth/zeb/detail/01.html)、国土交通省・関連団体が公表するモデル建物法の用途区分に関する資料(福祉施設は大分類「病院等」の区分で評価されるのが一般的)。BEIの評価対象は空調・換気・照明・給湯・昇降機です。用途区分や評価条件は個別の計画条件により判断が分かれる場合があるため、具体の設計・申請にあたっては所管行政庁・省エネ適判機関等にご確認ください。