高効率の空調機に更新した。制御も新しくした。それでも電気代が思ったほど下がらない――設備更新のあとに、こうしたご相談をいただくことがあります。原因は機器そのものではなく、「設計どおりに動いていない」ことにある場合が少なくありません。今回は、その状態を確かめて本来の性能を引き出す「コミッショニング(Cx/性能検証)」を取り上げます。

車には点検があるのに、建物の設備には

建築設備には、建築基準法や省エネ法に基づく法定点検や報告の義務があります。ただしそれらは主に安全や法令順守を確かめるためのもので、省エネの観点から設備が適切に調整され本来の性能を出しているかまでは確認されないのが実情です。建築設備コミッショニング協会(BSCA)は、現状の性能すら確認されていないケースも多いと指摘しています。

同協会はこれを車の点検・整備にたとえています。車はプロの整備を受けることで安全性と走行性能が保たれる仕組みができている。建物の設備にも同じように、専門家による性能検証と最適調整が要る、という考え方です。快適性や知的生産性を損なわずに20%以上の省エネが可能とされ、費用対効果の高い手法として国際的に定着しています。

新築と既存、二つの入り口

新築のコミッショニングは、設計図書や施工の内容を検証し、必要に応じて性能試験を行って、発注者が求めた性能が確実に実現されるようにするプロセスです。

既存建物のコミッショニングは、いま動いている設備の運用性能をデータで検証・分析し、運転の調整や必要な改修を提案するもの。BEMS(エネルギーの使用状況を計測・記録し制御する仕組み)の記録と運転担当者へのヒアリングから不具合と改善策を一覧にし、それぞれの省エネ量と費用対効果を試算していきます。

実例では、大阪の地域冷暖房施設で蓄熱槽の運転方法などを見直し、年間約300万円のコスト削減を実現。コミッショニングへの投資は約2年で回収できたと報告されています。電力会社の営業所では、空調設備の改修に設計段階からCxを適用し、蓄熱槽のショートサーキット(送った冷温水が十分に使われずに戻ってしまう現象)の改善などにより、改修前と比べ夏季で25%のエネルギー削減に至りました。

省エネ診断やESCOとの違い

省エネ診断は「今どうなっているか」を知る手段で、改修工事を前提とした診断では提案が工事寄りになりがちです。ESCOは削減額の保証と引き換えに設備更新をまとめて任せる仕組み。これに対しコミッショニングは、中立の立場でデータを分析し、運転改善から改修計画までを組み立てる点に特徴があります。ESCO事業でも、保証した削減を守るために性能検証は欠かせません。互いに排他的なものではなく、組み合わせて使うものと考えるのが実務的です。

評価制度でも位置づけは明確です。東京都はトップレベル事業所認定の評価項目にコミッショニングを据えており、CASBEEでは運用管理体制の項目で評価されます。

まずは設計値と実績を見比べる

大がかりな体制をいきなり組む必要はありません。手元のBEMSや検針データで、設計時の想定と実際の使われ方を突き合わせてみる。そこで説明のつかない差が見つかれば、それが検証の出発点になります。ZEBナレッジの「ZEB実績データ分析」では、ZEB実証事業の公開データで設計値と運用実績の関係を確かめられますので、自分の建物の位置を知る手がかりとしてお使いください。

設備は、入れた瞬間が完成ではありません。確かめて、整えて、初めて設計どおりの性能になります。ご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。


想定読者:建物オーナー・施設管理ご担当者、自治体の公共施設・脱炭素ご担当者、設計者

注:本コラムは公開情報に基づく概説です。記載の削減率・削減額は特定事例の実績であり、効果は建物の用途・規模・設備構成・運用状況によって異なります。個別の検討にあたっては専門家にご確認ください。

出典・参考リンク

  • NPO法人 建築設備コミッショニング協会「コミッショニングとは(建物オーナー向け)」 https://www.bsca.or.jp/outline/commissioning.html
  • NPO法人 建築設備コミッショニング協会「既存ビルのCx事例」 https://www.bsca.or.jp/activity/retro.html