設備を何ひとつ変えていないのに、省エネ性能の数字が動くことがあります。計算方法を変えたときです。今回は、非住宅建築物の省エネ計算にある二つの方法と、その使い分けを整理します。
二つの入り口
省エネ性能は、国立研究開発法人建築研究所が公開する「エネルギー消費性能計算プログラム(WEBプログラム)」で算定します。非住宅では主に次の二つが使われます。
モデル建物法は、国が用途ごとに用意した「モデル建物」へ、主要な室の外皮・設備情報を入力する簡易な方法です。入力項目が少なく、短期間・低コストで結果が出ます。ただし簡易化の代償として、評価は安全側(実際より不利側)に振れる傾向があります。延べ面積300㎡未満には、さらに入力を絞った「小規模版」もあります。
標準入力法は、対象建物のすべての室について床面積・設備機器・外皮性能を入力する方法です。手間と費用はかかりますが、設計の工夫が数字にそのまま反映されます。
判定指標はBEI(設計一次エネルギー消費量÷基準一次エネルギー消費量)。省エネ基準への適合はBEI1.0以下、ZEB Readyは再エネを除いて50%以上の削減、つまりBEI0.5以下が目安です。
標準入力法を選ぶ場面
2025年4月から、すべての新築非住宅建築物で省エネ基準への適合が義務化されました。基準適合だけならモデル建物法で足りる場合が多く、実際にも広く使われています。標準入力法が要るのは、おおむね次の場面です。
- モデル建物法ではBEIが目標値に届かないとき
- 容積率の緩和など、行政手続の条件になっているとき
- モデル建物法では扱えない部分があるとき
ZEBについては、制度上の整理を押さえると判断しやすくなります。BELSでの『ZEB』・Nearly ZEB・ZEB Ready・ZEB Orientedの表示は、どちらの方法でも可能です。一方、50%削減のような高い水準を示す場面では、安全側に評価されるモデル建物法だと設計の実力が数字に出にくく、結果として標準入力法を選ぶことが多くなります。補助事業では計算方法が明示されることもあります。補助金を使う計画なら、必ず当該年度の公募要領をご確認ください。
決めるのは、なるべく早く
厄介なのは、後から切り替えるコストです。モデル建物法で進めた案件を途中で標準入力法に変えると、室ごとの情報を集め直すことになり、設計の終盤では大きな負担になります。基本設計の段階で「目標とするBEIの水準」と「使う計算方法」をセットで決めておく。それだけで手戻りはかなり減らせます。
その目標設定には、ZEBナレッジの「ZEB技術の分析」をお使いください。ZEBリーディング・オーナーの事例を用途や延床面積で絞り込み、断熱性能(BPI)や用途別の省エネ性能(BEI/AC、BEI/L等)を確認できます。
想定読者:建物オーナー・施設管理ご担当者、自治体の公共施設・脱炭素ご担当者、設計者
注:本コラムは公開情報に基づく概説です。制度の運用や補助事業の要件は年度により変わります。個別の案件については、所管行政庁・登録省エネ判定機関・補助事業の執行団体および専門家にご確認ください。
出典・参考リンク
- 一般社団法人 環境共創イニシアチブ「令和8年度 ZEB実証事業 公募要領」(2026年4月) https://sii.or.jp/zeb08/jissho_public.html
- 日本ERI株式会社 省エネ支援センター「BELS評価におけるZEB表示の手引き」(2025年12月) https://www.j-eri.co.jp/download/erihp/16_bels/zeb_bels.pdf
- 国土交通省 国土技術政策総合研究所・国立研究開発法人 建築研究所「エネルギー消費性能計算プログラム(非住宅版)モデル建物法(小規模版)入力マニュアル」 https://building.lowenergy.jp/