冬になると「乾燥する」という声が必ず出ます。加湿器は付いているのに効かない。多くの場合、故障でも能力不足でもなく、空調が冬でも冷房・送風で回っていることが原因です。加湿装置の清掃を始める前のいまが、確認しておくのによい時期です。
暖房期の湿度は、半分以上の建物で基準を外れている
建築物衛生法の空気環境管理基準は、相対湿度を40%以上70%以下と定めています。東京都が特定建築物に行っている立入検査では、平成28年度の不適率は通年30.7%に対し、暖房期(12〜3月)は65.5%。冷房期の16.5%とは桁が違います。やや古いデータですが、同じ資料は「ほとんどの年度において、冬期の不適率が通年の2倍以上」と記しています。
カタログの加湿能力は、暖房運転時の値
気化式加湿器の能力は、加湿前の空気の温度に強く左右されます。冷たい空気は、飽和に達するまでに受け入れられる水分量そのものが小さいためです。この余地に対してどこまで加湿できたかの割合を飽和効率といい、同じ加湿量を出すのに必要な飽和効率は、入口空気30℃ならおよそ30%、15℃ならおよそ75%。低温になるほど、能力の高い加湿器でなければ届きません。
東京都の資料には、暖房運転(加湿モジュール入口47.6℃)で1.0kg/hの気化式加湿器が、送風運転(入口22℃)では0.3kg/hまで落ちる例が挙げられています。カタログの「定格加湿能力」は、暖房運転時の値だからです。
ところが実際のビルは、断熱・気密の向上とOA機器や人体による内部発熱の増加で、冬でもインテリア側は冷やす必要があります。加湿がいちばん必要な季節に、加湿器がいちばん苦手な運転をしているわけです。
方式によって、湿度とエネルギーのバランスが変わる
- 気化式:消費電力が小さく、いまのビル空調で最も多く採用されています。低温時に弱いのが弱点でしたが、加湿モジュールの面積を増やして飽和効率を高めた機種が出てきており、新築ビルの不適率はこれで改善してきました。
- 蒸気式:加湿効率はほぼ100%で空気の状態に左右されませんが、水を沸かす分エネルギー使用量が大きくなります。
- 水噴霧式:暖房運転以外での加湿はほぼ困難で、噴霧した水の多くが使われないまま排水されます。更新時には切替えの検討対象になります。
確実なのは蒸気式ですが、一次エネルギー消費量は増えます。省エネ法でも湿度の調整は空気調和設備の機能として評価対象に入ります。方式を変えて力ずくで湿度を上げるより、飽和効率の高い気化式を選び、外気負荷そのものを全熱交換器や気密で小さくするほうが、湿度と省エネの両方に効きます。
シーズン前に見ておくこと
- 機器表の加湿能力と、必要加湿量を突き合わせる。必要加湿量は風量・外気導入率・内外の絶対湿度から計算できます。能力が足りていないなら、清掃では解決しません。
- 加湿モジュールのスケールと汚れ。建築物衛生法では加湿装置の清掃は1年以内ごとに1回、点検は使用開始時と以後1か月以内ごとに1回が定められています。
- 能力が足りているのに湿度が上がらない場合は、気化式なら飽和効率、蒸気式ならダクト内での結露ロスを疑います。
乾燥の相談が来てから動くと、その冬はもう間に合いません。運転を始める前のいまのうちに、機器表を一度開いてみてください。
想定読者:建物オーナー・施設管理のご担当者、自治体の施設ご担当者、設計者
注:不適率の数値は東京都が所管する特定建築物の立入検査結果(平成28年度)であり、全国値ではありません。加湿装置の能力判定・更新の検討は、建築物環境衛生管理技術者や設備設計者にご相談ください。
参照
- 東京都健康安全研究センター「ビル衛生管理講習会資料 第1章 加湿について」:https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/files/k_kenchiku/bldg/kousyukaisiryo/dd3cd5a48d3bbb5aa03d954990b4883a2.pdf (表1 平成28年度期間別空気環境不適率=通年30.7%・暖房期65.5%・冷房期16.5%、図16 気化式の暖房運転1.0kg/h→送風運転0.3kg/h、飽和効率の定義と算定、加湿方式3種の特徴、表2 加湿装置の管理項目と頻度)
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」(相対湿度40%以上70%以下):https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/
- 建築物衛生法施行規則第3条の18(加湿装置の清掃1年以内ごとに1回、点検は使用開始時及び以後1月以内ごとに1回)
- 国土交通省国土技術政策総合研究所・建築研究所「エネルギー消費性能計算プログラム(非住宅版)標準入力法 入力マニュアル Ver.3.6」(2024年4月)「評価の対象となる設備」2.(評価対象となる空気調和設備の機能として「温度、湿度調整」を規定):https://building.lowenergy.jp/file/webprov3_manual_20240401.pdf