ZEB Readyは「基準一次エネルギー消費量から50%以上の削減」と定義されています。では、その基準はどこから来るのでしょうか。改修前の実績でも、同規模の他のビルの平均でもありません。分母は、図面が決まった時点でほぼ機械的に計算されています。

分母は「室用途 × 床面積」の積み上げ

基準一次エネルギー消費量は、空調・換気・照明・給湯・昇降機の5設備それぞれについて計算し、足し合わせたものです。このうち昇降機を除く4設備は、次のかたちで求めます。

床面積あたりの基準値[MJ/(㎡・年)] × 室面積 を、全室について合計する

床面積あたりの基準値は、平成28年国土交通省告示第265号の別表第2に、室用途ごとの数値として定められています。事務室、会議室、廊下、便所、電気室……といった室用途の一つひとつに、設備別の数値が割り当てられている、と考えてください。空調と給湯については、省エネ基準の地域区分も参照します。寒い地域ほど空調の基準値が大きくなる、という調整です。

つまり計算に入れるのは「どの室が、どの用途で、何㎡か」だけ。分母はそこから自動的に決まります。分母を自分の都合で動かすことはできません。

例外は昇降機で、こちらは面積ではなく積載量・速度・台数から計算されます。しかも、サービス水準を過剰に設定しても基準値が甘くならないよう、「輸送能力係数」で補正がかかる仕組みになっています。

基準値は「いまの使い方」ではなく「標準的な設備」

基準値は、その建物が実際にどれだけエネルギーを使っているかとは無関係です。その室用途に標準的な設備を入れた場合の想定消費量であり、運用実績ではありません。BEI(設計値÷基準値)は、設計図面どうしを比べるための物差しです。

用途によって、削減率の難しさは変わる

分母が室用途で決まるということは、どの設備が分母の大きな割合を占めるかも用途しだいということです。事務所なら空調と照明、ホテルや病院なら給湯の比重が大きくなります。削減の打ち手をどこに置くかは、まずここを見て決まります。

そして、24時間の稼働や衛生上の要求から削りにくい負荷を抱える用途ほど、同じ努力でも削減率は出にくくなります。ZEB Orientedで、事務所・学校・工場が40%以上、ホテル・病院・百貨店などが30%以上と用途で水準を分けているのも、この難易度差を制度が認めているからです。「50%」という数字だけを見て一律に判断しないほうがよい理由が、ここにあります。

実務で効くこと

室用途の割り当てを実態に合わせる。 用途の選び方で分母が変わり、削減率も変わります。恣意的に選ぶのは論外ですが、実態と違う用途のまま計算が進んでいる例は珍しくありません。計画の早い段階で、室用途表を一度点検しておく価値があります。

目標値を決める前に、分母がどう作られているかを押さえる。遠回りに見えて、数字の議論が噛み合うようになります。


想定読者:建物オーナー、自治体の営繕・施設ご担当者、設計者、省エネ計算の実務を担当される方

注:本コラムは公開されている技術資料に基づく概説です。個別物件の判定・算定は、最新の告示および計算プログラムの仕様でご確認ください。

参照

  • 国土交通省国土技術政策総合研究所・国立研究開発法人建築研究所「平成28年省エネルギー基準 一次エネルギー消費量算定方法の解説(非住宅建築物)」第10章 基準一次エネルギー消費量の算定方法:https://webpro-nr.github.io/BESJP_EngineeringReference/EngineeringReference_chapter10.html (基準一次エネルギー消費量=空調・換気・照明・給湯・昇降機+その他の合計、各設備が「床面積あたりの基準値×室面積」の積算であること、係数が国交省平成28年告示265号別表第2で室用途・地域区分ごとに規定されていること、昇降機の輸送能力係数の定義)
  • 環境省「ZEB PORTAL」ZEBの定義:https://www.env.go.jp/earth/zeb/detail/01.html (BEI=設計一次エネルギー消費量÷基準一次エネルギー消費量、省エネ基準適合はBEI≦1.0、再エネを除きBEI≦0.50でZEB Ready、ZEB Orientedの用途別削減率40%/30%、基準一次エネルギー消費量が地域や建物用途・室使用条件により定められること)
  • 国立研究開発法人建築研究所「平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(非住宅建築物)4.1 一次エネルギー消費量の基準値に関する情報」:https://www.kenken.go.jp/becc/documents/building/Definitions/kaisetsusyo_DefaultSpec_20140602.pdf