病院は24時間365日動き続ける建物です。空調も照明も給湯も止められず、工事中も患者さんがそこにいる。だからこそ「うちでZEBは難しい」と言われやすい用途でもあります。ただ環境省のZEB PORTALには、延床1,500㎡ほどの既存病院が改修でZEB Readyを達成した事例が公開されています。

1,467㎡の既存病院がZEB Readyに

長野県の上田病院(医療法人健静会)は、既存建物の改修で一次エネルギー消費量を50.4%削減(再生可能エネルギーを除く)し、ZEB Ready(創エネを除いて50%以上の削減)に到達しました。地上4階・S造・延床1,467.48㎡、2020年竣工。新築ではなく、設備更新のタイミングを使った改修です。

進め方は基本に忠実です。まず外皮――既存サッシの内側にLow-Eガラスの内窓を追加し、BPI(外皮性能の指標。1.0以下が目安)を確保。次に照明をLED化しセンサーを併用して、照明負荷とそれに伴う空調負荷を落とす。そのうえで空調をガスエンジンエアコンから空冷ヒートポンプエアコンへ、給湯をヒートポンプ給湯機と太陽熱パネルへ更新し、最後に太陽光発電と蓄電池を載せています。

病院ならではの三つの論点

費用の壁 試算では当初予算の2倍以上となり、「そこまでして必要か」という声が出たと報告されています。結果は総工費9,900万円のうち国庫補助5,900万円、実質負担4,000万円。年間ランニングコスト削減は約250万円(想定値)、投資回収16年という整理でした。補助金の有無で判断が変わる点は、正直に押さえておくべきところです。

工期と患者への影響 改修範囲が広がり、工期は当初計画より延びました。対応は特別な技術ではなく、入院患者への事前説明の徹底です。医療施設では工程計画そのものが設計の一部になります。

停電時に何を動かすか 同院は災害時医療救護協定病院で、手術室系統には既に非常用発電機がありました。そこで太陽光・蓄電池の供給先を、待合室の空調と病室・廊下・診察室等の照明に絞っています。ZEBの設備がそのままBCP(事業継続計画)の備えになる好例です。

設計値を運用実績にするために

同院はBEMSで空調・照明・給湯・太陽光・太陽熱を10分単位・83点で計測し、年2回ZEBプランナーから使用状況の報告と改善提案を受けています。改修前は機器の劣化で極端な温度設定になっていたものを見直し、給湯設備も利用実態に合わせて能力を適正化しました。データを読む人がいて初めて、計算上の性能が実際の光熱費になります。

なお内窓には、窓際のコールドドラフト(冷気の下降流)改善と防音性向上という副次効果も報告されています。省エネは同時に、室内環境の話でもあります。

まずどこから

延床10,000㎡以上の建物なら、ZEB Orientedという段階も選べます。病院等・ホテル等・百貨店等・飲食店等・集会所等は削減率30%以上(事務所等・学校等・工場等は40%以上)と、用途特性を踏まえた水準です。いきなり50%を目指さず、ここから始める進め方も現実的でしょう。

出発点は、いまの建物が何にどれだけエネルギーを使っているかを知ること。設備更新の予定があるなら、その計画にZEBの視点を重ねるところからです。


想定読者:病院・診療所の経営者および施設担当者、医療施設を扱う設計者、自治体の公立病院担当者

参照元:環境省 ZEB PORTAL「ZEBの定義」(https://www.env.go.jp/earth/zeb/detail/01.html)、同「改修ZEB事例の技術情報 事例5 上田病院」(https://www.env.go.jp/earth/zeb/case/tech_05.html)。数値はいずれも公開資料に基づく計算値・想定値であり、実際の効果は建物条件により異なります。