「うちは工場だから。電気の大半は生産ラインで、建物の話をしても仕方がない」――工場や倉庫のオーナーからよく伺う言葉です。実感としてはその通りなのですが、制度上は少し事情が違います。ZEBの評価に、生産設備のエネルギーは含まれないからです。

物差しは、建物設備の5つだけ

建築物省エネ法で評価対象となるのは、空気調和設備・機械換気設備・照明設備・給湯設備・昇降機の5つです。家電やOA機器といった「その他」の消費機器は含まれません。ZEBの判定(BEI)もこの考え方に沿っています。

つまり製造ラインそのものの電力は、物差しの外側。「工場等」は建築物省エネ法の用途分類のひとつとして位置づけられており、モデル建物法では工場のほか倉庫業を営む倉庫・営まない倉庫、卸売市場なども「工場モデル」で計算します。

「計算に入らない部屋」がある

さらに工場用途では、標準的な使用条件を設定しにくい室や常時使用されない室が評価対象外とされています。物品を製造するための室と、そこから機能的に切り離せない通路・搬出入スペース。冷凍室・冷蔵室・冷温室。水処理・焼却設備のある室。機械式駐車場。非常用発電設備の室――こうした部分は床面積には入っても、一次エネルギー消費量の計算には入りません。

冷凍冷蔵倉庫のオーナーは、ここで驚かれるかもしれません。エネルギー消費量が大きい冷凍室が、評価の外にあるのです。

追い風であり、落とし穴でもある

追い風の面としては、評価対象が事務棟の照明設備や換気設備などに絞られるため、比較的少ない投資でBEIを低減しやすいことが挙げられます。倉庫は大空間で照明の比重が高く、LED化とセンサー制御がそのまま数字に効きます。屋根面積が大きく太陽光も載せやすい。BELSの事例にも工場での取得は少なくありません。

落とし穴の面としては、「ZEB Readyを取得したにもかかわらず、電気代が半分にならない」といった事態が起こり得ることが挙げられます。削減率50%は評価対象の5設備に対する数字で、工場全体の電力ではないからです。社内や金融機関へのご説明の際には、この点を曖昧にせず明確にしておくことで、後々の対応がスムーズになります。ZEBは建物の性能証明であって、工場全体のエネルギー診断とは別物と切り分けてください。

何から手をつけるか

まずは、いまの電力を「生産設備」と「建物設備」に分けて把握すること。分電盤の系統を見れば大枠は掴めます。建物設備側は、照明のLED化、屋根・外壁の断熱、換気の見直し、事務棟の空調更新という順序が定石です。

延床10,000㎡以上なら、ZEB Orientedという入口もあります。工場等は削減率40%以上(事務所等・学校等と同水準)に加え、未評価技術の導入が要件です。いきなりZEB Ready(創エネを除き50%削減)を狙わない進め方も現実的でしょう。

新築や増改築のご予定がある場合、省エネ適合性判定はいずれにしても必要となります。その計算を活用してBELSやZEBの評価まで進めておくほうが、後から改めて取得するよりも負担を小さく抑えられます。


想定読者:工場・倉庫を保有する事業者の経営者および施設・設備担当者、生産施設や物流施設を扱う設計者、企業誘致や産業団地に関わる自治体担当者

参照元:環境省 ZEB PORTAL「ZEBの定義」(https://www.env.go.jp/earth/zeb/detail/01.html)、環境・省エネルギー計算センター「工場の省エネ計算(省エネ適合性判定)とは?」(https://www.ceec.jp/column/energy-saving-plant-method-of-calculation/)。制度の詳細や評価対象外となる室・設備の範囲は個別条件により判断が分かれる場合があります。具体の計画にあたっては所管行政庁・省エネ適判機関等にご確認ください。