「ホテルは24時間動きっぱなし。お客様がお湯をふんだんに使う商売で、省エネと言われても難しいのでは」――宿泊施設のオーナーからよく伺う声です。たしかにオフィスや学校のように「夜は止める」わけにはいきません。ですが、だからこそ手をつける場所がはっきりしている、とも言えます。

用途分類は「ホテル等」

建築物省エネ法では、非住宅の建物を事務所等・病院等・物販店舗等・学校等・飲食店等・集会所等・工場等、そして「ホテル等」といった用途に分けて評価します。ZEBの判定に使うBEI(設計一次エネルギー消費量を基準値で割った指標。小さいほど省エネ)も、この用途区分ごとの標準的な使い方を前提に計算します。

評価の対象は、空調・換気・照明・給湯・昇降機という建物設備。ホテルでこの5つを見渡したとき、他用途と比べて存在感が大きいのが給湯です。

エネルギーの主役は、空調と給湯

客室のシャワーや浴室、大浴場、厨房――宿泊業は「お湯を売っている」と言われるほど給湯負荷が大きい業態です。しかも24時間稼働ゆえ、貯湯タンクの保温ロスや深夜帯の待機も積み上がります。空調は客室ごとの個別制御が基本で、在室・不在のムラも大きい。ここに省エネの余地が眠っています。

効かせる順番

給湯は、高効率なヒートポンプ給湯機への更新、厨房や空調からの排熱回収、太陽熱の利用が王道です。空調は個別機の高効率化に加え、カードキーと連動して不在時に自動でセーブする客室制御が定番。外皮の断熱と日射遮蔽は、光熱費だけでなく客室の暑さ・寒さのクレーム低減にも直結します。照明のLED化と人感センサーは、廊下や宴会場のように「点けっぱなし」になりがちな場所ほど効きます。

「稼働率」という厄介な変数

ホテル特有の悩みが稼働率です。満室の夏と閑散期とでは、建物のエネルギー原単位がまるで違う。設計時のシミュレーションと運用実績がずれやすいのはこのためで、犯人は性能ではなく使われ方であることが少なくありません。BEMS(設備のエネルギーを計測・見える化する仕組み)で稼働と消費を並べて追い、季節や客室数に応じて運用を調整する。ここまでやって、はじめて設計性能が現場で活きてきます。

省エネと、泊まり心地は両立する

断熱と遮音を高めた客室は、静かで温度ムラが少なく、そのまま宿泊体験の質になります。ZEB化は我慢の省エネではなく、快適性とブランド価値を同時に高める投資であり、インバウンドや取引先が重視するESGへの訴求にもつながります。省エネ性能表示制度(建物の燃費ラベル)で対外的に示せる点も、宿泊施設とは相性が良いはずです。

新築や大規模改修を予定されている場合には、いずれの場合も必要となる省エネ適合性判定の計算結果を、そのままBELS・ZEBの評価まで活用して進めることが、効率的な方法といえます。まずは自館の給湯と空調が電力・ガスのどれくらいを占めているのか、その把握から始めてみてください。


想定読者:ホテル・旅館など宿泊施設を運営する経営者および施設・設備担当者、宿泊施設を手がける設計者、観光振興や公共の宿泊施設に関わる自治体担当者

参照元:環境省 ZEB PORTAL「ZEBの定義」(https://www.env.go.jp/earth/zeb/detail/01.html)、国土交通省 建築物省エネ法の用途区分・BEIの考え方に関する公表資料。用途ごとの評価条件や対象設備の範囲は個別条件により判断が分かれる場合があります。具体の計画にあたっては所管行政庁・省エネ適判機関等にご確認ください。