「うちは賃貸マンションなのですが、ZEBにできますか」というご相談をいただくことがあります。答えは少し込み入っていて、集合住宅にはZEBとは別の枠組みが用意されています。それがZEH-M(ゼッチ・マンション)です。
ZEB(ゼブ)は事務所や学校といった非住宅建築を対象とした考え方で、住宅は対象外です。共同住宅は住宅系の制度で評価され、一棟まるごとの省エネ性能を測る指標としてZEH-Mが使われます。名前は違いますが、目指す方向は同じ――建物が使うエネルギーを減らし、残りを創エネで補って実質ゼロに近づける、という考え方です。
「住棟全体」で評価するという特徴
ZEH-Mの最大の特徴は、住戸ごとではなく住棟全体で評価する点です。共用部の照明やエレベーター、屋上に載せた太陽光発電も含めて一棟として計算します。
ただし外皮(断熱や窓の性能)については住戸ごとの評価となり、すべての住戸が強化外皮基準を満たすことが求められます。つまり「南側の住戸だけ性能を上げて平均で稼ぐ」という考え方は通りません。どの部屋に住んでも一定の断熱性能が確保される、という設計思想です。
四つの水準と、階数による現実的な目標
ZEH-Mには達成度に応じた四つの区分があります。いずれも共通の前提として、強化外皮基準への適合と、再生可能エネルギーを除いた省エネ対策だけで基準一次エネルギー消費量から20%以上の削減が必要です。そのうえで、再エネを含めた削減率で区分されます。
- 『ZEH-M』:100%以上の削減
- Nearly ZEH-M:75%以上100%未満
- ZEH-M Ready:50%以上75%未満
- ZEH-M Oriented:再エネによる削減を求めず、省エネ対策のみで20%以上
区分が分かれているのは、階数によって達成しやすさが大きく変わるためです。屋上に置ける太陽光パネルの面積は建物の高さに関わらずほぼ一定ですが、住戸数は階数に比例して増えます。低層であれば一棟分のエネルギーを屋上で賄える見込みが立ちますが、高層になるほど一戸あたりの発電量は薄まっていきます。
このため国のロードマップでも、1〜3階建ての低層は『ZEH-M』やNearly ZEH-M、4〜5階建てはZEH-M Ready、6階建て以上はZEH-M Orientedを目指す、という段階的な目標が示されています。高層マンションでOrientedを狙うのは「妥協」ではなく、建物形状の制約を踏まえた合理的な目標設定だとご理解ください。
オーナーにとっての意味
集合住宅の光熱費は、共用部はオーナー負担、住戸内は入居者負担に分かれます。断熱性能を上げても電気代が下がるのは主に入居者側で、オーナーの投資が直接回収されにくい――これが省エネ改修が進みにくい構造的な理由です。
とはいえ、光熱費の高騰が続くなかで「夏に涼しく、冬に暖かい」住まいは入居者に選ばれる条件になりつつあります。空室率や家賃水準、退去までの期間といった経営指標で捉え直すと、断熱投資の見え方は変わってきます。加えて、6階以上でOriented水準であれば太陽光発電に頼らず外皮と設備の性能で到達でき、大規模修繕のタイミングに合わせれば追加費用は抑えられます。
まずは自社物件の共用部電力量と、外皮・設備の現状を把握することが出発点です。どの水準が現実的に狙えるのかは、階数と屋上面積を見ればおおよその見通しが立ちます。
想定読者:賃貸・分譲マンションのオーナーや管理会社、公営住宅を所管する自治体担当者、集合住宅の設計者
参照元:資源エネルギー庁「集合住宅におけるZEHロードマップ検討委員会 とりまとめ」(平成30年5月)、および同ロードマップに基づく各社解説記事。補助事業の要件は年度ごとに変更されるため、実際の申請時は各年度の公募要領を必ずご確認ください。