夏の図書館は、朝から席が埋まります。涼しく静かで、誰でも無料で滞在できる。近年は自治体が「暑さをしのげる場所」として開放時間を延ばす例もあり、猛暑のなかで図書館や文化施設が担う役割は年々大きくなっています。
その一方で、施設担当者の頭を悩ませるのが光熱費です。図書館・美術館・博物館といった文化施設は、他の公共建築とは少し違うエネルギーの使い方をします。省エネを進めるにも、まずはこの「使い方の違い」を踏まえることが欠かせません。
文化施設のエネルギーは何が違うのか
第一に、空調を止めにくいことです。事務所であれば夜間や休日は空調を切れますが、収蔵庫や書庫は資料の保存のために温湿度を一定に保つ必要があり、閉館後も運転が続きます。年間の運転時間が長いぶん、設備効率の差がそのまま光熱費の差になって現れます。
第二に、湿度の管理が求められることです。一般的な事務所空調は温度を主目的に設計されますが、資料保存では相対湿度の安定が重要になります。温度だけを下げようとすると湿度が振れやすく、逆に湿度を抑え込もうとすると再熱(一度冷やした空気を温め直す運転)でエネルギーを余計に使う、という悩ましさが生じます。
第三に、開架スペースは天井が高く、大きな窓を持つ設計が多いことです。明るく開放的な閲覧空間は魅力ですが、そのぶん夏の日射熱が入りやすく、冷房負荷を押し上げます。紫外線による資料の劣化も避けたいところです。
順序は「入ってくる熱を減らす」から
こうした施設でZEB化を考えるとき、いきなり高効率設備の導入から入ると投資が過大になりがちです。まずは建物に入ってくる熱と、逃げていく熱を減らすことが先です。
開架スペースの大きな窓は、Low-E複層ガラス(特殊な金属膜を施し日射熱と熱の出入りを抑えたガラス)への交換や、外付けの日射遮蔽が効きます。窓の外側で日射を遮る方式は、内側のブラインドより冷房負荷の削減効果が大きく、同時に紫外線の低減にもつながります。改修が難しい場合でも、既存サッシの内側にもう一枚設置する内窓という選択肢があります。
外皮の負荷を下げたうえで、はじめて空調の規模と方式を検討する。この順序を踏むと、設備容量そのものが小さくなり、初期費用と運転費の両方が下がります。
用途ごとにゾーンを分ける
もう一つの要点は、館内をひとつの空調系統で扱わないことです。収蔵庫、閲覧室、事務室、ホールでは、必要な温湿度も使用時間もまったく異なります。厳しい条件が求められるのは収蔵庫であって、閲覧室ではありません。にもかかわらず一系統で運転していると、館全体を最も厳しい条件に合わせることになり、無駄が生じます。
用途ごとに系統を分け、それぞれに合った条件と運転スケジュールを設定する。設備更新のタイミングは、このゾーニングを見直す好機です。
更新計画に省エネを載せる
文化施設は空調機や照明の更新時期を迎えている建物が少なくありません。単独では投資判断が難しい省エネ工事も、すでに予定された更新工事に組み込めば、追加の費用は小さく抑えられます。
自館のエネルギー使用量を用途別・時間帯別に把握することが出発点です。「収蔵庫と閲覧室で、それぞれどれだけ使っているか」が見えると、次の一手は自然に決まってきます。
想定読者:自治体の施設担当者、図書館・美術館・博物館の管理運営者、設計者
注:個別の温湿度条件や設備仕様は施設の保存方針・資料特性により異なるため、実際の検討は専門家との協議を前提とする。