暑さが本格化し、空調機の不調から更新を検討し始める時期です。機器を選ぶとき、多くの方はまず効率(COPやAPF)とイニシャルコストを比べます。しかし2026年のいま、業務用空調にはもうひとつ避けて通れない軸があります。「冷媒」です。国はフロン類の削減スケジュールを法律で定めており、機器の種類ごとに切り替えの期限が決まっています。省エネ計算には現れないこの論点を、施主・建築関係者・経営層の視点で整理します。
混同されがちな、二つの「2027年」
いまエアコンをめぐって「2027年問題」という言葉が流れていますが、これは家庭用の話です。省エネ法(省エネ・非化石転換法)のトップランナー制度により、2027年4月から家庭用エアコンの新しい省エネ基準(2027年度基準)が始まります。資源エネルギー庁の試算では、6畳用(2.2kW機)でAPFが5.8から6.6へ向上し、年間約2,760円、14畳向け(4.0kW機)で年間約12,600円の光熱費削減が見込まれます。
ただし誤解が広がっているため、資源エネルギー庁は明確に否定しています。この制度はメーカーが出荷する製品全体の平均で評価される仕組みであり、いま使っている機器が使えなくなるわけでも、基準未達の製品が販売禁止になるわけでもありません。修理も、メーカーの部品保有期間(おおむね10年)内であれば従来どおり可能です。
一方、業務用空調にはまったく別の「2027年」があります。フロン排出抑制法の指定製品制度において、ビル用マルチエアコンの冷媒GWP目標年度が2027年度に設定されているのです。ZEB(ゼブ/ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を検討する建物で問題になるのは、こちらの方です。
なぜ冷媒が規制されるのか
エアコンや冷凍機に封入されている代替フロン(HFC)は、オゾン層こそ壊しませんが、強力な温室効果ガスです。GWP(地球温暖化係数:CO2を1としたときの温室効果の大きさ)で見ると、業務用で広く使われてきたR410Aは2,090、R134aは1,430。1kgの漏えいが、CO2に換算して2トン前後の排出に相当する計算です。
日本はモントリオール議定書キガリ改正に基づき、オゾン層保護法でHFCの製造・輸入量を段階的に絞り込んでいます。2017年の基準値7,152万t-CO2に対し、2029年には70%減(2,145万t-CO2)、2036年には85%減まで削減する計画です。2024年実績は2,382万t-CO2まで下がっていますが、2029年以降の基準限度はさらに厳しくなります。経済産業省は2026年4月に「フロン類使用見通し」の改正告示を施行しており、規制の実効性を高める方向で運用が進んでいます。
背景には排出の実態もあります。環境省・経済産業省が公表した2023年の冷媒マテリアルフローでは、機器の使用時の大気放出が約1,322万t-CO2、廃棄時が約1,541万t-CO2。稼働中の機器に眠っている冷媒のストックは約25万トン(CO2換算で約3億5千万トン)にのぼります。HFCsの排出量は2023年時点で約3,170万トン(2013年比で約44%増)であり、地球温暖化対策計画が掲げる2030年目標(約897万トン)との差は依然大きい状況です。
機器区分ごとに決まっているGWP目標年度
指定製品制度は、製品区分ごとにGWPの目標値と目標年度を定め、メーカーに達成を求める仕組みです。業務用空調の主な区分は次のとおりです。
| 機器区分 | GWP目標値 | 目標年度 |
|---|---|---|
| 店舗・事務所用エアコン | 750 | 2025年度 |
| 中央方式エアコン(遠心式圧縮機) | 100 | 2025年度 |
| ビル用マルチエアコン | 750 | 2027年度 |
| 設備用エアコン | 750 | 2029年度 |
| ガスエンジンヒートポンプ(GHP) | 750 | 2029年度 |
(出典:経済産業省 産業構造審議会資料、2026年3月)
R410A(GWP 2,090)は目標値750を大きく超えるため、目標年度を迎えた区分では、新規設置される機器は実質的に低GWP冷媒機に置き換わっていきます。「いま入っている機器と同じ型を、10年後にそのまま更新できるとは限らない」——これが設備計画上の実務的な含意です。
使っている間にも義務がある
冷媒は買って終わりではありません。フロン排出抑制法は、業務用空調・冷凍冷蔵機器(第一種特定製品)の管理者に対し、次の義務を課しています。管理者は原則として所有者ですが、契約書で保守・修繕の責務を他者が負う場合はその者が該当します。テナントビルでは誰が管理者かを契約で明確にしておくことが重要です。
- 簡易点検:すべての対象機器について、3か月に1回以上。異常音、損傷・腐食、油漏れ、熱交換器の霜付きなどを目視で確認。管理者自身で実施可能
- 定期点検:有資格者等による専門点検。空調機は7.5kW以上50kW未満で3年に1回以上、50kW以上で年1回以上。冷凍冷蔵機器は7.5kW以上で年1回以上
- 記録簿の作成・保存:機器ごとに作成し、廃棄後3年間保存。売却時は記録簿も引き渡す
- 未修理機器への充填の原則禁止:漏えいを直さずガスを足すことは認められていません
- 算定漏えい量の報告:年間1,000t-CO2以上漏えいした事業者は、7月末までに国へ報告
- 廃棄時の行程管理:登録された充填回収業者への引き渡しと、引取証明書の保存(3年)
なお、2019年改正法の施行から5年が経過し、国は廃棄時回収の徹底、再生HFCの利用拡大、使用中の大気放出抑制について新たな規制を検討中です。今後さらに管理者側の負担が増える可能性があります。
ZEBの視点:省エネ計算に映らない排出
ここが本題です。ZEBの評価指標であるBEI(設計一次エネルギー消費量/基準一次エネルギー消費量)は、あくまでエネルギー消費量の指標です。冷媒のGWPも漏えい量も、この計算式には一切登場しません。つまり、BEI 0.5を達成した優秀な建物でも、冷媒が漏れていれば温室効果ガスは確実に出ています。しかも冷媒漏えいは、事業者のScope1(直接排出)に計上される排出であり、省エネや再エネ電気の調達では相殺できません。
そのうえで、更新計画を立てる際に押さえたい三つの軸を挙げます。
1. 効率と冷媒を同時に見る
機器の省エネ性能とGWPは、カタログの別々の場所に書かれています。両方を並べて比較しないと、「効率は良いが高GWP冷媒」という選択が残ってしまいます。
2. 更新時期の見極め
パッケージエアコンの一般的な耐用年数は13〜15年です。老朽機の更新は省エネ効果が大きい一方、目標年度をまたぐ時期の更新は、選べる機種のラインナップが変わります。ZEB化改修を検討しているなら、空調更新のタイミングをその計画に寄せた方が、補助制度の活用も含めて有利に働きます。
3. 設計段階での「点検できる設計」
定期点検は、点検スペースがなければ実施できません。室外機まわりの作業空間、配管ルートへのアクセス、機械室の余裕。これらは図面上では地味な項目ですが、法定点検の実効性と漏えい抑制の成否を左右します。低GWP冷媒には微燃性のものもあり、設置環境の条件を早い段階で設計に織り込むことも必要です。
まとめ
空調更新は、効率とコストだけの判断ではもう完結しません。冷媒のGWP、機器区分ごとの目標年度、そして使用中・廃棄時の法定義務まで含めて、10年先を見た計画にすることが求められます。ZEBを目指す建物であればなおのこと、「省エネ計算に映らない排出」を放置しない設計と運用を。まずは自社の機器台帳と点検記録の整備状況を確認するところから始めてみてください。
出典・参考リンク
- 経済産業省 産業保安・安全グループ 化学物質管理課「オゾン層保護法・フロン排出抑制法の施行状況と動向」(令和8年3月4日)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/chemicals/pdf/003_06_00.pdf
- 環境省「フロン排出抑制法ポータルサイト」 https://www.env.go.jp/earth/furon/
- 環境省「第一種特定製品の管理者に関する運用の手引き(第3版)」 https://www.env.go.jp/earth/furon/files/r03_tebiki_kanri_rev3.pdf
- 環境省「フロン類算定漏えい量報告・公表制度パンフレット」(2025年3月版) https://www.env.go.jp/earth/furon/files/lawpamphlet_202503.pdf
- 資源エネルギー庁「27年4月からエアコンの新たな省エネ基準がスタート!エアコンについて知っておくべきポイントは?」(2026年4月17日) https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/air_conditioner_2026.html
- 広島県「フロン排出抑制法に基づく第一種特定製品の管理者、第一種特定製品廃棄等実施者の義務」 https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/46/furontokuteiseihinkanrisyagimu.html
本コラムは一般に公開されている情報にもとづく解説であり、個別の建物・機器への適用可否は条件により異なります。具体的な検討にあたっては専門家にご相談ください。