真夏の施設管理では、「冷房の設定温度を上げてください」という掲示が貼られる光景をよく見かけます。すぐに実行できる省エネ策ではありますが、暑さの訴えが増え、結局は元に戻ってしまう。そんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
暑い・涼しいという感覚は、室温だけで決まるわけではありません。ここを理解しておくと、我慢に頼らない打ち手が見えてきます。
「設定温度」と「室温」は違う
まず押さえておきたいのが、空調機のリモコンに表示される設定温度と、実際に人がいる場所の室温は別物だということです。設定温度は、あくまで空調機が制御の目安とする値です。センサーの位置、吹出し空気の回り方、外皮からの熱の入り方によって、部屋の中には温度のむらが生じます。
窓ぎわは暑いのに奥は寒い、という苦情が同じ部屋から同時に出るのは珍しくありません。設定温度を動かす前に人のいる場所を何点か測ってみると、問題が空気の配り方にあると分かる場合があります。
暑さを決める四つの要素
人の温熱感覚は、温度・湿度・気流・放射(周囲の面から受ける熱)という環境側の四要素と、着衣量・活動量という人間側の二要素で決まります。国際的な快適性の評価指標であるPMV(予測平均温冷感申告)も、この六つを組み合わせて算出されます。
つまり、室温を下げなくても、ほかの要素を動かせば涼しく感じられるということです。
湿度。同じ27℃でも、湿度が高ければ蒸し暑く、汗が蒸発しにくいため不快に感じます。除湿を効かせるだけで体感は大きく変わります。
気流。扇風機やサーキュレーターでゆるやかな風をつくると、体表面からの放熱が進み、体感温度は下がります。消費電力は空調機に比べればごくわずかです。
放射。日射を受けた窓ガラスや外壁の内側表面は、室温より高くなります。人はその面から熱を受け取るため、空気の温度が適正でも暑く感じます。窓ぎわの席で「効いていない」と言われる主な理由がこれです。
我慢の省エネから、建物の性能へ
放射の話は、そのまま建物性能の話につながります。日射遮蔽や断熱を強化すれば、内側の表面温度が下がり、同じ室温でも涼しく感じられます。空調機の負荷そのものも小さくなるため、省エネと快適性が同時に成り立ちます。
我慢を求める省エネは、必ずどこかで限界が来ます。外皮の性能を上げ、高効率の設備を適切に運転し、それでも残る分をエネルギーで賄う。ZEBの考え方は、この順序を踏むことで「暑いのを我慢しない省エネ」を実現しようとするものです。
最後に一点。近年の猛暑では、室内でも熱中症は起こります。省エネのために健康を損なうことがあってはなりません。目安の数値にとらわれず、利用者の状態を優先してご判断ください。そのうえで、来年の夏に向けて建物側で手を打てることはないか、いま一度ご検討ください。
想定読者:建物オーナー、施設管理のご担当者、自治体の施設・環境ご担当者、設計者
参照元:温熱環境の六要素(温度・湿度・気流・放射・着衣量・活動量)およびPMV(予測平均温冷感申告)による快適性評価の考え方は、ISO 7730ならびにJIS Z 8807等に基づく一般的な建築環境工学の知見による。日射遮蔽・断熱による表面温度低減と体感温度の関係についても同様。
備考:気流や湿度による体感温度の変化量は、室内条件・個人差により幅があるため、本稿では具体的な数値を示していません。実際の改善検討にあたっては、対象建物での実測をおすすめします。