七月下旬、学校は長い休みに入りました。子どもたちのいない校舎は、自治体の施設担当者にとって年に一度の「工事ができる期間」です。この数週間の使い方で、その学校の次の十年の光熱費と快適性が変わってきます。
学校施設は、自治体が保有する建物のなかで床面積の比率が最も大きいことが一般的です。公共施設全体の脱炭素を考えるとき、学校は避けて通れません。一方で予算は限られ、耐震・老朽化対策など優先課題も並んでいます。だからこそ「どうせ工事をするなら省エネも一緒に」という発想が効いてきます。
予定された工事に省エネを相乗りさせる
ZEB化というと新築の話に聞こえますが、既存校舎でも改修の積み重ねで近づけます。鍵は、単独では投資しにくい省エネ工事を、すでに予定されている工事に相乗りさせることです。
外壁の大規模修繕をするなら、足場が架かっているうちに断熱の検討を。屋上防水を打ち替えるなら、同時に屋根断熱を厚くする。いずれも、あとから単独で実施すると足場代や仮設費が二重にかかる工事です。改修計画を立てる段階で、設計者に「この工事に省エネ要素を載せるとしたら何か」と一言聞いてみる価値があります。
教室は、まず原因の切り分けから
学校の教室は床面積に対して窓が大きく、夏の日射の影響を受けやすい構成です。ガラス交換が難しい場合でも、内窓(既存サッシの内側にもう一枚設置する方式)の追加や日射遮蔽の見直しといった手段があります。庇(ひさし)が浅く午後の西日が入り込む教室では、室内側のカーテンより、窓の外側で日射を遮る対策のほうが効果は大きくなります。
まずは「暑くて授業がしづらい」と声が上がる教室を特定し、原因が日射なのか、換気なのか、空調機の能力不足なのかを切り分けることから始めるとよいでしょう。
体育館は「省エネ」と「安全」を一緒に語る
近年の夏の暑さを考えると、体育館の環境改善は省エネ以前に児童生徒の安全の問題です。体育館は天井が高く容積が大きいため、断熱のないまま空調機だけを入れると、設備能力も電気代も過大になりがちです。
順序としては、屋根・外壁の断熱と日射対策で入ってくる熱を減らし、そのうえで必要な空調規模を算定する。この順番を踏むことで初期費用と運転費の両方を抑えられます。多くの体育館は災害時の避難所にも指定されていますから、断熱性能の向上は平時の熱中症対策と非常時の居住環境の双方に効く投資です。防災部局と教育委員会が別々に検討していると、この一石二鳥を取り逃がしやすいところです。
一度にZEBを目指さなくてよい
ZEBには段階があり、省エネ率50%以上の「ZEB Ready」、そこに再生可能エネルギーを加えた「Nearly ZEB」「ZEB」と続きます。既存校舎でいきなり最上位を狙う必要はありません。自校のエネルギー使用量を把握し、次の改修でどこまで削減できるかを試算する。その積み重ねが結果的にZEBへの道筋になります。
夏休みの工事を発注する前に、「この改修は将来のZEB化にどうつながるか」を一度確認しておく。それだけでも、次の一手は立てやすくなります。
想定読者:自治体の教育委員会・施設担当者、学校施設の改修に関わる設計者・施工者
参照元:ZEBの区分と省エネ率の定義は、経済産業省・環境省が示すZEB定義(ZEB Ready=再生可能エネルギーを除く一次エネルギー消費量50%以上削減、Nearly ZEB=同50%以上削減かつ再エネを含め75%以上削減、ZEB=同100%以上削減)に基づく。改修手法および断熱と空調の検討順序は一般的な設計実務の考え方を整理したもので、個別の建物では実測・シミュレーションによる検証が必要。
備考:補助制度名・交付額は年度により変動するため本コラムでは記載していない。適用可能な制度は計画時点で所管省庁・都道府県の最新情報を確認のこと。