九月も半ばに入り、日中はまだ冷房が必要な一方で、朝晩は給湯のありがたみが戻ってくる時期になりました。同じ建物の中で、片方では熱を屋外へ捨て、もう片方では燃料や電気を使って熱をつくっている。この「行き違い」を結び直すのが、排熱回収という考え方です。
建物は思っている以上に熱を捨てている
冷房とは、室内の熱を集めて屋外へ運び出す作業です。屋上の冷凍機や、外に並んだ室外機からは、夏じゅう熱が放出され続けています。それだけではありません。厨房のフード、サーバー室や電気室、スーパーマーケットの冷凍冷蔵ショーケース、浴室や厨房から流れる温かい排水。いずれも「その場では要らなくなった熱」ですが、捨てているという自覚はあまり持たれていません。
一方で同じ建物が、給湯や暖房のために別途エネルギーを投じて熱をつくっています。捨てている熱と、買い直している熱。両者がつながっていないことは珍しくありません。
冷房と給湯が重なる建物ほど効きやすい
この行き違いを機械的に橋渡しするのが、熱回収ヒートポンプ(熱回収チラー)です。冷房のために室内から汲み上げた熱を、屋外へ捨てずに給湯や再熱へ回す仕組みで、冷やす仕事と温める仕事を一台でまかないます。
したがって効果が出やすいのは、冷熱と温熱の需要が同じ時間帯に重なる建物です。ホテルや宿泊施設、病院、介護施設、スポーツ施設、食品を扱う店舗など、年間を通じて給湯需要が大きい用途が代表例です。逆に、給湯がほとんど手洗い程度という事務所ビルでは、回収した熱の行き先がなく、投資に見合わないこともあります。「熱が出ているか」ではなく「その熱を欲しがる相手が同時にいるか」が判断の分かれ目です。
熱には「量」だけでなく「温度」がある
もうひとつ押さえておきたいのが、排熱の温度です。三十数度の排熱をそのまま六十度の給湯に使うことはできません。ただし、水道水を給湯機に入れる前の予熱に使う、あるいはヒートポンプで温度を引き上げてから使う、という道はあります。全量を置き換えられなくても、立ち上げの一部を肩代わりするだけで効果は出ます。「使えるか使えないか」ではなく「どこまで下ごしらえできるか」と考えると、選択肢が広がります。
なお、換気の排気から熱を回収する全熱交換器も熱回収の一種ですが、こちらは空気同士で熱をやり取りする設備で、今回の話とは役割が異なります。
検討するなら設備更新の前に
排熱回収は、既存の建物に後から足そうとすると難しくなりがちです。熱の出口と入口が離れていれば、配管を延ばす工事費と搬送のロスで効果が消えてしまいます。逆に、熱源機や給湯設備の更新を計画する段階であれば、機器の選定と配置をあわせて考えられるため、現実的な選択肢になります。
省エネというと、効率の高い機器に取り替える話に向かいがちです。しかし排熱回収は、設備を足すというより、すでに建物の中にある熱の流れをつなぎ直す発想です。次の更新計画を立てるとき、「この熱はどこへ行っているのか」を一度たどってみると、思わぬ余地が見つかることがあります。
想定読者:建物オーナー、自治体の施設管理・営繕担当者、設備の更新計画を検討中の方、設計実務者
参照・注記:本コラムは特定の統計値・実測値・機器性能値を引用していません。記載内容は熱源設備計画における一般的な考え方を整理したもので、排熱回収の成立条件や省エネ効果は、建物の用途・規模・熱需要の時間分布・設備構成・既存配管の状況によって大きく異なります。導入可否は個別のシミュレーションと現況調査に基づきご検討ください。