九月に入り、夏場の電気の請求書が出そろう時期になりました。昨年度に空調や照明を更新された建物では、改修後はじめての夏の実績が見えてきているころかと思います。ここでよくいただくのが「期待したほど減っていない」というご相談です。
最初に切り分けたいのは、改修が効かなかったのか、それとも夏が暑かったのか、という点です。前年同月と単純に比べるだけでは、この二つは区別できません。
去年の夏と今年の夏は、同じ夏ではない
冷房に使うエネルギーは、その年の気温に素直に左右されます。猛暑日が数日多いだけでも、月間の電力使用量は目に見えて動きます。改修の効果を測るなら、気象条件をそろえてから比べる必要があります。
実務でよく使われるのが「度日(デグリーデー)」という考え方です。ある基準温度を超えた分の気温を日ごとに積み上げた値で、冷房であれば冷房度日と呼びます。「その月がどれだけ冷房を必要とする陽気だったか」を一つの数字にしたものです。気象庁が公開している過去の気温データから、所在地に近い観測地点の値を使って計算できます。
前年と今年で冷房度日が大きく違えば、電力使用量が同じでも実質的には省エネできています。逆に、涼しい夏だっただけなのに「改修が効いた」と評価してしまうと、翌年に数字が戻って混乱します。
気温以外に、そろえておきたい条件
補正すべきは気温だけではありません。実績を比べる前に、次の点が前年と変わっていないかを確認しておきます。
- 稼働日数・営業時間(連休の並び、臨時休館など)
- 在館人数、テナントの入れ替え、部署の増減
- 新たに持ち込まれたサーバーや厨房機器などの発熱・電力
- 設備の運転スケジュールや設定温度の変更
これらが動いていると、改修とは無関係に使用量が上下します。
比べる相手は「昨年の実績」ではなく「補正した基準値」
省エネ効果の検証には、M&V(計測と検証)という考え方があります。骨格はシンプルで、改修していなかったら今年いくら使っていたかを推計し、実際の使用量との差を効果とみなす、というものです。
そのためには、改修前の一定期間(12か月程度)の月別使用量と、その期間の気象・稼働条件を対応づけた基準値(ベースライン)を作っておきます。改修後は、今年の気象条件をその基準値に当てはめて「もし改修していなかった場合の値」を出し、実績と比べます。月別の検針票と気温データがそろっていれば、表計算ソフトでも十分に成立します。
改修前のデータは、あとからは取れない
いちばんお伝えしたいのはここです。ベースラインは改修前にしか作れません。工事が終わってから「効果を検証したい」となっても、比較のもとになる記録がなければ手の打ちようがありません。
検針票、デマンドの記録、BEMSの計測値は、改修を検討し始めた時点から意識して残しておいてください。補助事業では交付後の実績報告でエネルギー使用量の提出を求められる場合もあり、その備えにもなります。
効果が数字で示せると、次の設備更新やZEB化改修の稟議も通しやすくなります。夏の実績が出そろった今は、その整理を始めるのにちょうどよい時期です。
想定読者:建物オーナー、施設管理・総務のご担当者、自治体の営繕・環境ご担当者、設計者
参照元:省エネルギー改修の効果検証に関する一般的な実務知見に基づく解説。度日の基準温度、ベースライン期間の取り方は目的や手引きによって異なります。気温データは気象庁の過去の気象データ検索より取得できます。M&Vの国際的な手引きとしてはIPMVP(Efficiency Valuation Organization 発行)があります。補助事業の報告要件は事業ごとに異なるため、必ず各公募要領をご確認ください。本コラムに具体的な削減率等の数値は掲載していません。