本格的な夏を前に、オフィスや店舗の冷房コストが気になり始める時期です。実は、夏に建物へ入ってくる熱の多くは「窓」を通って侵入しています。だからこそ、窓まわりの対策は冷房負荷の削減に最も効く打ち手のひとつです。本コラムでは、ZEB(ゼブ/ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の考え方をヒントに、新築でも既存ビルでも取り入れやすい「日射遮蔽」の基本を、施主・建築関係者・経営層の視点で分かりやすく整理します。

なぜ夏は「窓」対策が効くのか

資源エネルギー庁の解説によれば、夏の冷房時に室外から室内へ侵入する熱のおよそ7割(一部の資料では約73%)が、窓などの開口部を通って入ってくるとされています。壁や屋根に比べて、窓は熱を通しやすく、さらに日射(太陽の光と熱)が直接透過してくるためです。

環境省のZEBポータルでも、日射が室内に入るルートには「窓ガラスを透過して入る経路」と「屋根や外壁に当たって熱に変わり伝わる経路」があり、前者のほうが取得する熱が大きい傾向にあると説明されています。つまり、限られた予算で冷房負荷を下げたいなら、まず窓まわりから手を付けるのが理にかなっているということです。

ここで重要なのは、いったん室内に入ってしまった熱は、冷房エネルギーを使って冷やすしかない、という点です。入る前に遮るほうが、入った後に冷やすよりはるかに効率的です。これが「日射遮蔽(にっしゃしゃへい)」、すなわち日射を入口で遮るという考え方の出発点です。

ZEBの3ステップ ― 「減らす→賢く使う→創る」の順番

ZEBとは、高い断熱・省エネ性能で使うエネルギーを大幅に減らしたうえで、太陽光発電などでエネルギーを創り、建物が一年間に消費する一次エネルギー(冷暖房・照明・給湯などに使うエネルギーを石油換算で合算したもの)を大きく削減した建築物のことです。

環境省は、ZEBを実現する手順として次の3ステップを示しています。第一に「パッシブ技術」でエネルギーの需要そのものを減らすこと。第二に、どうしても必要な分は「アクティブ技術」で無駄なく効率的に使うこと。第三に、それでも残る分を太陽光発電などの「創エネ技術」で賄うこと、という順番です。

ここで言うパッシブ技術とは、機械の力に頼らず建物の造りそのもので快適さを保つ工夫で、外皮断熱・日射遮蔽・自然採光が代表例です。一方アクティブ技術は、高効率の空調や照明など、設備でエネルギーを賢く使う工夫を指します。冷房負荷の話に当てはめれば、まず日射遮蔽(パッシブ)で熱の侵入を抑え、その上で高効率エアコン(アクティブ)を選ぶ、という順序が王道になります。設備を入れ替える前に建物の「器」を整えるほうが、結果的に投資効率が高くなるのです。

窓まわりの具体策 ― ガラス・庇・ブラインド

では、窓まわりで具体的に何ができるのでしょうか。大きく「ガラスそのもの」と「日差しを遮る付属物」の二つに分けて考えると整理しやすくなります。

ガラスでは、Low-E(ロウイー=低放射)複層ガラスが主流です。複層ガラスは2枚のガラスの間に空気やアルゴンガスの層を設けて断熱性を高めたもので、そのガラス面に特殊な金属膜をコーティングしたものがLow-Eガラスです。これには「断熱タイプ」と「遮熱タイプ」があり、夏の冷房負荷対策で効くのは室外側にコーティングを施した遮熱タイプです。強い日差しを反射し、室内の温度上昇を抑えてくれます。

付属物では、庇(ひさし)・ルーバー(細長い羽根板を並べた日よけ)・ブラインドが基本です。なかでも庇は、太陽の高さを利用できるのが利点です。夏は太陽高度が高いので庇で日射を遮り、冬は太陽高度が低いので奥まで日が差し込み暖房負荷を抑える、という具合に、庇の長さを適切に設計すれば一年を通じて働いてくれます。近年は、日射条件に応じて羽根の角度を自動で調整する制御型ブラインドや可動ルーバーも実用化されています。「夏は遮りたいが冬と昼の明るさは取り込みたい」という相反する要求に、これらを組み合わせて応えていくのがポイントです。

既存ビルでも始められる ― 改修と運用の工夫

「うちは新築ではないから関係ない」と思われるかもしれませんが、既存ビルでこそ取り組む価値があります。窓の内側に後付けできる遮熱ブラインドや、ガラスに貼る遮熱フィルム、外付けの日よけなど、大がかりな工事を伴わない手段も選べます。

あわせて、換気と運用にも目を向けたいところです。全熱交換器を備えた換気設備を使えば、排気の熱を回収して給気に移すため、換気のたびに冷気が逃げる無駄を抑えられます。さらにBEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム=建物のエネルギー使用状況を計測・可視化し、設備運転を最適化する仕組み)を導入すれば、どこに無駄があるかを「見える化」し、運用段階での継続的な削減につなげられます。既存の分電盤に計測機器を足してクラウド型BEMSを導入するなど、段階的に始められる方法もあります。昼間の自然光をうまく採り入れる自然採光と組み合わせれば、照明の電力も同時に抑えられます。

まとめ ― 「入る前に遮る」を今年の夏の合言葉に

夏の冷房負荷は、入った熱を冷やすより、窓で入口を遮るほうがずっと効率的です。まずは日射遮蔽というパッシブな工夫から始め、高効率設備や創エネへと段階的に広げる ― これがZEBの考え方であり、新築にも既存改修にも通用する基本です。なお、国は2026年度もZEB化を後押しする補助制度を用意しています。本格的な猛暑が来る前に、自社の建物の「窓」を一度見直してみてはいかがでしょうか。

出典・参考リンク

– 環境省「ZEB PORTAL」ZEBを実現するための技術:https://www.env.go.jp/earth/zeb/detail/06.html

– 環境省「ZEB PORTAL」支援制度:https://www.env.go.jp/earth/zeb/hojo/

– 資源エネルギー庁 省エネポータルサイト(事業者向け省エネ関連情報):https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/enterprise/support/index02.html

– 環境省 エネ特ポータル(令和8年度予算 及び 令和7年度補正予算 脱炭素化事業一覧):https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/enetoku/2026/