「再エネ100%の電力メニューに切り替えました。これでうちのビルもZEBと名乗れますか」。最近、こうしたご質問をいただく機会が増えました。答えを先に申し上げると、切り替えだけではZEBにはなりません。ただし、それが無意味という話でもありません。この二つは、まったく別の物差しを見ているからです。

ZEBが測っているのは「建物そのものの性能」

ZEB(ゼブ/ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の評価は、建築物省エネ法の一次エネルギー消費量計算に基づいて行われます。対象となるのは、空調、換気、照明、給湯、昇降機の五つの設備。断熱性能や窓の仕様、機器の効率、制御の方式といった「建物がどう造られているか」から計算される数値です。

ここに、どの電力会社と契約しているかという情報は入りません。同じ建物であれば、標準メニューでも再エネメニューでも計算結果は一字一句変わらない。ZEBの区分(ZEB Ready、Nearly ZEB、『ZEB』)は、建物のハードウェアが決めるものだからです。

再生可能エネルギーについても範囲が決まっています。算入できるのは敷地内(オンサイト)に設置したものに限られ、自家消費分に加えて余剰売電分が対象になります。つまり、自分の屋根に載せた太陽光はカウントされますが、遠くの発電所で作られた電気を購入しても、この計算上は評価されません。

それでも再エネ調達には意味がある

一方、CO2排出量の話になると評価は逆転します。再エネメニューや非化石証書(電気の非化石価値を切り出して取引できるようにした証書)を使えば、その電気に由来する排出量――企業会計でいうスコープ2――はゼロとして報告できます。

2026年度から本格稼働したGX-ETSや、取引先から求められる排出量報告に対しては、工事を伴わず契約の切り替えで済む即効性のある手段です。

ただし一点だけ。調達を変えても、建物が使う電気の量そのものは1kWhも減りません。

順番としては「減らす」が先

実務的には、次の順序で考えると整理しやすくなります。

第一に、使用量を減らす。 証書や再エネメニューの上乗せ費用は、使用量に比例して毎年かかり続けます。省エネで使用量を2割減らせば、その調達コストも2割減る。断熱や設備更新は一度投資すれば効き続ける、いわば元本の圧縮です。

第二に、敷地内で作る。 屋根の太陽光は、電気代の削減とZEB評価の両方に効きます。オンサイトだからこそ二重に効く投資です。

第三に、残りを調達で埋める。 ここで初めて再エネメニューや証書の出番になります。

建物の性能向上は、光熱費やCO2以外にも波及します。省エネ性能表示(BELS)による見える化、テナントや金融機関からの評価、執務環境の改善。契約書の書き換えでは得られないものです。

自社の建物が全国のどのあたりに位置しているのか。まずは現在地の把握から始めてみてください。


想定読者:ビル・工場のオーナーや管理部門、脱炭素の報告を担当される方、自治体の施設・環境担当者、設計者

参照元:ZEB定義および再生可能エネルギーの算入範囲(敷地内に限定、自家消費分と余剰売電分が対象)は、経済産業省 資源エネルギー庁「ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ」および環境省 ZEB PORTAL「ZEBの定義」に基づく。一次エネルギー消費量の対象設備(空調・換気・照明・給湯・昇降機)は平成28年省エネルギー基準による。非化石証書の位置づけは資源エネルギー庁の制度説明による。GX-ETSの稼働状況は過去コラム(2026-07-13)と同じ出典。

備考:スコープ2の算定・報告の具体的な取扱いは、準拠する基準や報告先の要件により異なるため、実際の報告時は各制度の最新の運用ルールをご確認ください。