夏の電気代の話になると、まず空調機の効率や設定温度に目が向きます。ただ事務所ビルでは、空調負荷のおよそ2〜3割を「外気の処理」が占めるとされています。外から取り込んだ空気を冷やし、除湿するための負荷です。ここは機器を入れ替えなくても見直せる余地が残っています。

まず、換気には下限がある

前提として、換気量は減らせばよいというものではありません。建築基準法では、機械換気設備に在室者1人あたり20㎥/h以上の有効換気量を求めています。加えて、延べ面積3,000㎡以上の事務所や店舗など(学校は8,000㎡以上)は建築物衛生法の特定建築物にあたり、二酸化炭素(CO₂)1,000ppm以下、一酸化炭素6ppm以下、温度18〜28℃、相対湿度40〜70%といった基準を守り、2か月に1回測定する義務があります。一酸化炭素は令和4年4月から10ppm以下が6ppm以下に強化されました。

実際、東京都の立入検査ではCO₂濃度の不適率が2割前後で推移しています。換気が「足りていない」建物は、決して珍しくありません。

それでも「取りすぎ」は起きる

換気設備は、想定した最大在室人数をもとに設計されます。一方、実際の在室状況は日によっても時間帯によっても変わります。会議室が空いている、フロアの半分が外出している、といった状態でも定格のまま外気を入れ続ければ、誰もいない空間のために外気を冷やし続けることになります。過剰と不足は、同じ建物の別の部屋で同時に起きていることもあります。

測ってから決める

判断材料はCO₂濃度の実測です。市販の測定器で、会議室、執務室の窓側と内側など、性格の違う数か所を1週間ほど記録します。読み方の目安は次のとおりです。

  • 在室時に常時1,000ppmを超える … 外気量が不足。外気導入量を増やすか、在室人数やレイアウトを見直す
  • 終日400〜600ppm台で動かない … 在室状況に対して外気が過大な可能性

そのうえで、外気ダンパ開度の調整、在室スケジュールに合わせた運転時間の見直し、CO₂濃度に応じて外気量を変える制御(需要制御換気)の導入といった手段を選びます。全熱交換器や外気冷房が「入ってくる熱をどう扱うか」の工夫であるのに対し、こちらは「そもそも何㎥入れるか」の見直しです。

設計では外気濃度との差で考える

新築や大規模改修の設計では、もう一歩踏み込んだ考え方があります。空気調和・衛生工学会は2021年、必要換気量を算定するCO₂の設計基準濃度を「外気濃度+700ppm」とすることが望ましいと提言しました。大気中のCO₂濃度自体が上昇し続けているため、室内1,000ppmという固定値のままでは必要換気量が年々増えてしまう、という問題意識です。事務室ではおおむね1人あたり30㎥/hに相当します。ただし提言も断っているとおり、法令上の管理値は1,000ppmのままです。運用で守るべき数字が変わるわけではない点にはご注意ください。

換気量は、衛生のための下限とエネルギーの観点からの上限のあいだで決まります。実測しないままだと、どちらかに寄ったまま何年も運転が続きます。まずは1台の測定器から始められる見直しです。


想定読者:建物オーナー・施設管理ご担当者、自治体の公共施設・脱炭素ご担当者、設計者

注:本コラムは公開情報に基づく概説です。数値は一般的な目安であり、建物用途や運用条件により異なります。特定建築物の該当可否や具体的な維持管理については、所管の保健所・建築物環境衛生管理技術者および専門家にご確認ください。

出典・参考リンク

  • 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/
  • 東京都健康安全研究センター「特定建築物の衛生管理基準」 https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/k_kenchiku/bldg/kijyun/
  • 公益社団法人 空気調和・衛生工学会 学会提言「必要換気量算定のための室内二酸化炭素設計基準濃度の考え方」(令和3年5月31日) https://www.shasej.org/recommendation/6-9%20kanki%20teigen%202021.06.21.pdf
  • 一般財団法人 省エネルギーセンター「オフィスビルの省エネのポイントと対策および事例」 https://www.eccj.or.jp/office_bldg/img/office2.pdf