この夏のピークを越え、建物の電気の使い方を振り返る時期になりました。太陽光発電を導入済みの建物オーナーから、「次は蓄電池を入れれば、ZEBのランクが上がりますか」というご相談をいただくことがあります。結論から申し上げると、答えは「上がりません」。ただし、これは蓄電池に価値がないという意味ではまったくありません。今回は、この食い違いがどこから来るのか、そして蓄電池をどう位置づけるべきかを整理します。

計算のものさしに、蓄電池の欄はない

ZEBの判定は、エネルギー消費性能計算プログラム(非住宅版・通称WEBPRO)で算出した一次エネルギー消費量(空調・換気・照明・給湯・昇降機に使うエネルギーを石油換算で合算した量)をもとに行います。太陽光発電は、その発電量に相当する分を差し引く形で評価されます。一方、蓄電池そのものを評価する入力項目は用意されていません。

しかも太陽光の評価は年間の発電量ベースであり、その電気を自家消費したか売電したかで計算結果は変わりません。つまり、蓄電池で昼の余剰電力を夕方に回しても、計算上の数字は動かないのです。「ZEB Ready」から「Nearly ZEB」へといったランクの引き上げを狙うのであれば、効くのは断熱性能や設備効率の向上、あるいは太陽光の増設のほうです。

蓄電池が効くのは「電気代」と「非常時」

では蓄電池はどこで効くのか。実務では、次の3つに整理できます。

ピークカット。 高圧受電の電気料金では、当月を含む過去1年間の最大需要電力(デマンド)によって基本料金が決まります。年に数回しか出ない短時間のピークを蓄電池で肩代わりできれば、その後1年間の基本料金を下げられます。

自家消費率の向上。 昼に余った太陽光の電気を夕方に使えば、その分だけ買う電気が減ります。売電単価より買電単価が高い状況では、ためて使うほうが有利になります。

非常時のバックアップ。 停電時にも照明・換気・通信・サーバーなど、最低限の機能を維持できます。自治体庁舎や病院、福祉施設では、この価値が費用対効果の議論より先に来ることもあります。

判断はデマンドの実データから

検討の出発点は、電力会社から取得できる30分ごとの需要データです。ピークが年に何回、何時間発生しているのか。その山は、導入しようとする蓄電池の出力(kW)と容量(kWh)で削り切れる形なのか。ピークが低く長く続くタイプの建物では、想定より大きな容量が必要になり、採算が合わないこともあります。カタログの容量だけを見て決めると、期待した削減幅に届きません。

あわせて確認したいのが、設置スペースと床の耐荷重、消防関係の届出、そして保証期間とサイクル寿命です。蓄電池は容量が経年で低下していく設備なので、15年・20年で見たときの残存性能まで含めて比較すると、判断を誤りにくくなります。

まとめ

蓄電池は「ZEBの点数を上げる設備」ではなく、「電気代と事業継続を支える設備」です。目的を取り違えなければ、有力な選択肢になります。ご検討の際は、まず直近1年分のデマンドデータをお手元にご用意ください。そこから、削れるピークがあるかどうかが見えてきます。


想定読者:建物オーナー、自治体の脱炭素・施設ご担当者、設計者

参照元:エネルギー消費性能計算プログラム(非住宅版)の評価項目の構成、高圧受電における実量制の契約電力の考え方、および当社の設計・改修実務。なお、補助金における蓄電池の取扱い(自家消費率の下限など)は制度・年度により異なるため、各公募要領の最新版をご確認ください。