省エネ改修やZEB化のご相談が具体的になってくると、ほぼ必ず出てくる質問があります。「工事の間、施設は閉めないといけませんか」。庁舎、学校、病院、店舗、福祉施設。止められない建物ほど長時間運転し、エネルギーを多く使い、そして改修の効果も大きい。この一見矛盾した状況をどう解くかが、既存建物のZEB化における実務の中心にあります。

止めずにできる工事から手をつける

改修メニューをひとまとめに考えると「大工事」に見えますが、分解すると、施設運営への影響が小さいものが相当あります。

  • 照明のLED化 ― 区画単位・夜間単位で進められる
  • 制御と運転スケジュールの見直し ― 設定値や時間帯の調整は工事を伴わないことも多い
  • 計量・BEMSの追加 ― 分電盤まわりの作業が中心
  • 屋根・外壁の外側からの断熱 ― 足場は必要ですが室内を使いながら施工できる
  • 窓の内窓追加(二重窓化) ― 既存サッシを残せるため一室あたりの作業時間が短い

いきなり熱源更新に踏み込まず、まずこの層をやり切るだけでも使用量は動きます。同時に、計量を先に入れておくと、その後の大きな投資の判断材料が手元に残ります。

「面」ではなく「系統」で工事を割る

止める範囲を小さくする鍵は、建物を階や区画といった「面」で割る前に、設備の「系統」で見ることです。空調であれば、熱源機と末端機(室内機・空調機)は必ずしも同時に更新しなくてかまいません。配管系統が複数に分かれていれば、片方を生かしながらもう片方を更新するという進め方もあり得ます。

そのためには、まず系統図と機器表を確認し、どこで切り離せるのかを設計の初期に把握しておくことが要ります。図面が残っていない建物では、この現況把握そのものが最初の作業になります。

切替の「その日」を先に設計する

居ながら改修で工程が破綻するのは、たいてい切替当日です。仮設空調や仮設電源が要るのか、停電・断水を伴う作業は何時間か、養生と動線をどう確保するか、騒音や臭気の出る作業を利用者のいない時間帯に寄せられるか。ここを設計段階で施設側と詰めておくと、見積の精度が上がり、当日の混乱も減ります。「工事費」ではなく「工事費+施設運営への影響」で比較する、という視点です。

壊れてからでは選べない

機器が故障してからの緊急更新では、選択肢はほぼ「同等品への早い取替え」に絞られます。高効率機の検討も、制御方式の見直しも、補助制度の活用も、時間がなければ乗せられません。計画的に手を打つことの価値は、実はこの「選べる状態を保つこと」にあります。

ZEB化は一度の大工事で完成させるものではありません。更新の機会が来た設備から、止めずにできる範囲で積み上げていく。その積み重ねが、数年後の建物の燃費を決めていきます。


想定読者:建物オーナー、自治体の施設管理・営繕担当者、既存建物の改修に携わる設計・施工実務者

参照・注記:本コラムは特定の統計値・実測値・補助制度の要件を引用していません。記載の工事区分や進め方は既存建物改修の一般的な考え方を整理したもので、実際に分割可能な範囲・工期・仮設の要否は建物の系統構成、機器の設置状況、施設の運営形態により大きく異なります。個別の計画は現況調査に基づいてご検討ください。