断熱材の厚み、窓の性能、空調機の効率。省エネの相談をいただくと、話題はたいていこの三つに集まります。ところが実際の建物を歩いてみると、性能表には載らないところでエネルギーが逃げていることが少なくありません。その代表が「漏気(ろうき)」、いわゆるすきま風です。

計算書には出てこない負荷

住宅の分野では気密性能(C値)という指標が広く知られていますが、非住宅建築ではあまり話題になりません。省エネ計算で使う一次エネルギー消費量計算プログラム(WEBPRO)でも、隙間からの空気の出入りを設計者が直接入力する仕組みにはなっていません。

つまり、漏気の多い建物と少ない建物が、計算上は同じ成績で並ぶことがあり得ます。設計図書のうえで省エネ性能が確保されていても、実際の光熱費が想定より下がらない。その差の一因が、ここに潜んでいることがあります。

空気はどこから入ってくるか

大きな建物で漏気が起きやすいのは、次のような場所です。

  • 出入口まわり ― 自動ドアの開閉頻度が高い、風除室の内外扉が同時に開いてしまう、開き戸の建付けが経年でずれている
  • シャッター・搬入口 ― 荷さばき中に開けっぱなしになる、シャッター下端やガイドレールの隙間
  • 外壁の貫通部 ― 設備配管やダクトの貫通部、後付け工事で開けた穴の処理が不十分なまま
  • 縦シャフト ― 階段室、エレベーター昇降路、パイプスペース。冬は暖まった空気が上階へ抜け、下階が引っ張られる「煙突効果」が起きます

もうひとつ見落とされがちなのが、換気の給排気バランスです。排気ファンの能力に対して給気が足りていないと、建物全体が負圧になり、隙間という隙間から未処理の外気が引き込まれます。厨房やトイレの排気を増設したあと、給気側を手当てしていない建物では珍しくありません。

お金をかけずにできる確認

特別な測定機器がなくても、気づけることはあります。内外の温度差が大きい日に、出入口や外壁の貫通部に手をかざしてみる。扉が重い、勝手に閉まらないといった症状は、室内外に圧力差がついているサインです。自動ドアが必要以上の頻度で開いていないか、風除室が二重扉として機能しているかも、しばらく眺めていれば見えてきます。

改修の選択肢も、大規模なものばかりではありません。建具のパッキンや戸当たりの交換、貫通部のシーリング更新、自動ドアの開放時間やセンサー感度の調整、シャッター運用ルールの見直し。給排気バランスについては、風量を実測したうえで給気口を追加する、排気の運転時間を用途に合わせて絞る、といった対応が考えられます。

「効かない」の前に

冷暖房が効かない、光熱費が下がらない。そう感じたとき、まず疑われるのは空調機の能力です。更新してもなお改善しないなら、建物が外気を吸い込み続けている可能性を一度確認しておく価値があります。断熱と気密は、片方だけでは十分に働きません。図面に映らないからこそ、現場で確かめる。それが実際の省エネ効果を設計値に近づける近道です。


想定読者:建物オーナー、自治体施設管理担当者、設計・改修に携わる実務者

参照・注記:本コラムは特定の統計値・実測値を引用していません。WEBPRO(エネルギー消費性能計算プログラム・非住宅版)における入力項目の扱いは標準入力法の入力体系に基づく記述で、漏気量を設計者が直接入力する項目は設けられていません。個別建物の漏気量や改善効果は建物条件により大きく異なるため、実際の判断は現地調査・実測に基づいてください。