朝いちばんに窓が白く曇る。外壁に面した隅にだけ黒いしみが出る。冬の風物詩として毎年見過ごされがちですが、結露は建物が出している信号です。しかも、どこに出るかは偶然ではありません。熱が逃げている場所、つまり断熱の弱いところに出ます。暖房を入れ始める前のこの時期に、去年どこが濡れたかを思い出しておく。それだけで、次の改修で手をつけるべき場所がかなり絞り込めます。

結露するかどうかは、室温では決まらない

空気が含むことのできる水蒸気の量には上限があり、その上限は温度が下がるほど小さくなります。ある空気を冷やしていって、水蒸気が飽和して水になり始める温度を露点温度といいます。室温20℃・相対湿度60%の空気なら、露点温度はおよそ12℃。この空気が12℃より冷たいものに触れれば、そこに水がつきます。

ここで大事なのは、判定に使うのが室温ではなく「物の表面温度」だという点です。同じ部屋の同じ空気でも、表面が冷たい部分だけが濡れる。だから結露した場所の分布は、そのまま表面温度の低い場所の分布になります。

表面温度は断熱性能からおおよそ見当がつきます。省エネ計算で使われる標準的な境界条件(室内20℃/外気0℃、室内側の表面熱伝達抵抗0.09㎡・K/W)で単純計算すると、室内側の表面温度は「20−1.8×熱貫流率U」。仮にU=6.0W/(㎡・K)程度の単板ガラスなら約9℃で、先ほどの露点12℃を下回ります。U=2.3W/(㎡・K)程度の複層ガラスなら約16℃で、露点には届きません。窓を替えると結露が止まるのは、この差です。

つまり結露対策と断熱性能の向上は、別々の工事ではありません。同じ工事の別の効果です。

熱橋は結露の常習犯

省エネ基準の計算要領では、熱橋を「構造部材、下地材、窓枠下材その他断熱構造を貫通する部分であって、断熱性能が周囲の部分より劣るもの」と定義しています。断熱層が途切れているところ、と言い換えてもいいでしょう。鉄筋コンクリート造なら床スラブや梁が外壁を貫くところ、鉄骨造なら柱・間柱まわり、どの構造でもサッシの枠まわりが該当します。

熱橋部は周囲より表面温度が下がるため、部屋全体としては問題がなくても、そこだけ露点を割ります。壁一面ではなく「柱の位置に沿って縦にカビの筋が出る」「天井際の水平線だけ黒くなる」といった出方をしたら、熱橋を疑ってよい状況です。同じ計算要領では、熱橋部の断熱性能を強化するために付加する断熱材を「断熱補強」と呼んでいます。結露が出ている線をたどれば、どこに断熱補強が要るかが見えてくるということです。

断熱を足すと、結露が移動することがある

もうひとつ、改修の場面で注意したいことがあります。断熱材を室内側に足すと、それより外側にある既存の構造体は、これまでより冷たくなります。断熱材が室内の熱を通さなくなるぶん、外壁の躯体は外気の温度に近づくからです。

このとき、室内の水蒸気が断熱材の裏側まで回り込むと、冷たくなった躯体の面で結露します。表面には出ないので気づきにくく、断熱材を濡らして性能を落としたり、下地を傷めたりします。これが内部結露です。

防ぎ方の考え方自体は単純で、水蒸気を断熱材の裏に入れないこと(室内側の防湿層)と、入った水蒸気を抜く道をつくること(外気側の通気)です。難しいのは施工のほうで、防湿層は継ぎ目や配管・配線の貫通部、下地の取り合いで簡単に切れます。断熱改修の見積もりを比べるときは、断熱材の厚さだけでなく、防湿と通気をどう納めるつもりかを聞いておくと、あとで効いてきます。

湿度を下げれば済む、とも限らない

結露は「表面温度が低い」ことと「空気が湿っている」ことの掛け算で起きるので、湿度を下げるのも対策のひとつです。ただし、下げればいいというものでもありません。

建築物衛生法の建築物環境衛生管理基準では、空気調和設備を設けている場合、居室の相対湿度を40%以上70%以下に保つこととされています(温度は18℃以上28℃以下、二酸化炭素の含有率は1,000ppm以下)。下限があるのは、乾燥しすぎも健康影響や不快につながるからです。結露を止めたいからといって際限なく乾かす、という選択肢は制度上も実務上もありません。

また、湿度を下げる手段として換気量を増やすと、その外気を暖めるエネルギーが増えます。省エネの観点では逆向きの動きです。結局のところ、表面温度を上げる側――断熱を直す側――で解くほうが、冬の暖房負荷も同時に減って筋がいい、ということになります。

暖房を入れる前に、見る場所を決めておく

結露は、断熱の弱点を無料で可視化してくれる診断装置です。ただし、記録しておかなければ春には忘れます。暖房を入れ始める前に、去年濡れた窓・壁・隅を建物の平面図に印をつけておく。この冬は、朝いちばんの状態を写真に撮って日付を残しておく。それだけで、次の改修計画で説得力のある資料になります。手を動かすのは工事のときでかまいません。まずは、見る場所を決めておくところからです。


想定読者:建物オーナー、自治体の営繕・施設管理担当者、設計実務者、断熱改修を検討している方

参照・注記:熱橋の定義(「構造部材、下地材、窓枠下材その他断熱構造を貫通する部分であって、断熱性能が周囲の部分より劣るもの」)、断熱補強の定義(「構造熱橋部の断熱性能を強化するために付加した断熱材」)、および計算に用いる境界条件(室内20℃・外気0℃、室内側の表面熱伝達抵抗0.09㎡・K/W)は、一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「鉄筋コンクリート造等の熱橋部位の線熱貫流率計算要領」(平成28年6月3日制定、https://www.hyoukakyoukai.or.jp/download/pdf/guide_rc_keisan.pdf )に基づきます。同要領は鉄筋コンクリート造等の住宅を対象としたものです。相対湿度40%以上70%以下、温度18℃以上28℃以下(令和4年4月1日以降)、二酸化炭素の含有率1,000ppm以下という値は、厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/ )に基づき、建築物衛生法上の特定建築物に適用されるものです。20℃・相対湿度60%における露点温度が約12℃であることは湿り空気の物性による計算値です。本文中の表面温度の数値(約9℃・約16℃)は、上記の境界条件と、仮に置いた熱貫流率6.0および2.3W/(㎡・K)を用いた本コラムでの単純計算であり、特定の製品の性能を示すものではありません。防湿層・通気層に関する記述は一般的な設計上の考え方であり、実際の納まりや結露判定は建物の構造・地域・使用条件により異なりますので、個別に専門家へご相談ください。