建物の省エネについてご相談をいただくとき、「他県で実績のある仕様をそのまま使いたい」というお話をうかがうことがあります。自然な判断ですが、省エネ計算の世界では、同じ仕様でも建つ場所によって評価が変わります。その入り口にあるのが「地域区分」です。

日本は八つに分けられている

省エネ基準では、全国を1地域から8地域までの八つに区分しています。国土交通省の資料では、1地域の例として旭川市、4地域に仙台市、6地域に東京23区、8地域に那覇市が挙げられています。数字が小さいほど寒い地域です。基準値は、各地域の外気温の傾向や使われている設備機器の実態を踏まえて、この八区分ごとに設定されています。

同じ県の中でも分かれる

注意したいのは、区分が都道府県単位ではなく市町村単位で定められている点です。岡山県を例にとると、県南の平野部と県北の山間部では区分が異なり、県内でも複数の区分にまたがります。さらに市町村合併の経緯から、同じ市の中でも旧町村の区域ごとに区分が指定されている場合があります。「岡山県だからこの区分」と決め打ちせず、建設地の住所で確認するのが確実です。

評価の「ものさし」が変わるということ

地域区分が効いてくるのは、断熱の基準だけではありません。省エネ性能の評価は、設計した建物の一次エネルギー消費量(空調・照明・換気などで使うエネルギーを熱量に換算して合計したもの)を、同じ規模・用途の標準的な建物の値と比べる形で行われます。この比較の相手となる基準値そのものが地域区分ごとに定められているため、地域が変われば物差しの目盛りが変わります。同じ設備、同じ断熱仕様でも、評価結果は一致しません。他地域でZEB Readyを達成した仕様が、別の地域でそのまま同じ評価になるとは限らない、ということです。

日射の区分は別に決まっている

もうひとつ、混同しやすいのが太陽光発電の扱いです。創エネの評価の基礎となる「日射に関する地域の区分」は、寒暖にもとづく地域区分とは別に定められており、両者は必ずしも一致しません。太陽光を含めてZEBを組み立てる場合は、二つの区分をそれぞれ確認する必要があります。

最初の一行を間違えない

地域区分は、省エネ計算を始めるときに最初に入力する項目のひとつです。ここを取り違えると、以降の検討がまとめてずれます。現行の区分は令和元年(2019年)11月に施行されたもので、それ以前に作られた古い資料や社内の標準仕様書には旧区分が残っていることがあります。

省エネの技術そのものに地域差はありません。変わるのは、どの技術にどれだけ投資すべきかという配分のほうです。「よその建物でうまくいった方法」を持ち込む前に、まず自分の建設地がどの区分に当たるのかを確かめる。地味な確認ですが、遠回りを避けるいちばん確実な手順です。


想定読者:建物オーナー、自治体の営繕・施設管理担当者、設計実務者、他地域の実績仕様の転用を検討している方

参照・注記:地域区分の考え方、区分数、都市の例、令和元年11月16日施行という時期、および「日射に関する地域の区分」が別に定められている点は、国土交通省「地域区分の見直し」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001345409.pdf )に基づきます。岡山県内が複数の区分にまたがる点は公開されている区分一覧によりますが、個々の市町村・旧町村の区分は告示および最新の公的資料でご確認ください。本コラムでは基準値や外皮性能の具体的な数値は記載していません。