暖房の季節が近づき、朝夕の電力需要が増える時期になりました。一方、春や秋の晴れた昼間には、太陽光発電の電気が余って発電を止める「出力制御」が各地で起きています。電気は同じ1kWhでも、使う時間によって電力系統への影響がまったく違います。2023年4月施行の改正省エネ法は、この「いつ使うか」を評価する仕組みを取り入れ、定期報告でもデマンドレスポンス(DR)の実績を報告するようになりました。ZEBの計算ではあまり意識されないこの視点を、冬を前に整理します。
電気が「余る時間」と「足りない時間」
太陽光発電の導入が進んだ結果、日中の電気が余る時間帯が増えています。資源エネルギー庁の資料(2025年6月)によると、2024年度の再エネ出力制御率は九州エリアで4.8%、中国エリアで2.3%、四国エリアで3.2%でした。出力制御とは、需要に対して発電が多すぎるとき、送配電事業者が発電所に出力を抑えてもらう措置です。つまり、せっかくの再エネ電気が使われずに捨てられている時間がある、ということです。
反対に、冬の朝夕や厳しい寒さの日には、暖房需要が増える一方で太陽光の発電が少なく、需給が厳しくなりやすい時間帯があります。2026年度の冬について、資源エネルギー庁は同年3月時点で、10年に一度の厳しい寒さを想定しても全エリアで安定供給に最低限必要な予備率3%を確保できる見通しを示しています。ただし同庁は、発電所の休廃止や異常気象などから、需給は予断を許さない状況だという認識も示しています。
改正省エネ法の「電気需要最適化」とは
こうした状況を受けて、2023年4月施行の改正省エネ法では、従来の「電気需要平準化」(昼間のピークを下げる考え方)が「電気需要最適化」に改められました。ポイントは次の二つです。
- 上げDR:再エネが余っている時間帯(出力制御時など)に、電気の使用を増やしたり前倒ししたりする取組
- 下げDR:需給がひっ迫している時間帯に、電気の使用を抑える取組
DR(デマンドレスポンス)とは、電力の需給状況に合わせて需要側が使い方を変えることを指します。従来の「とにかくピークを下げる」から、「余っているときは使い、足りないときは控える」へと考え方が変わったわけです。
定期報告で何が変わったか
エネルギー使用量が年間原油換算1,500kL以上の特定事業者等は、毎年の定期報告で次の事項を報告することになりました(令和6年度の報告から新様式)。
- 月別(1か月単位)または時間帯別(30分・60分単位)の電気使用量
- DRを実施した日数
さらに、「電気需要最適化評価原単位」という指標で取組が評価されます。これは系統から買った電気を、時間帯ごとに異なる「電気需要最適化係数」で換算するものです。近畿経済産業局の解説資料に示された例では、出力制御時間帯は3.60MJ/kWh、その他の時間帯は9.40MJ/kWh、需給が厳しい時間帯は12.2MJ/kWhとされており、同じ1kWhでも余っている時間に使えば評価上は軽く、ひっ迫時に使えば重く数えられます(係数は報告年度の実績に基づき、エリアごとに設定・公表されます)。この原単位は、5年平均で年1%以上の低減が目標とされています。
なお、時間帯別係数を使うには30分・60分単位の計量データが必要です。月別係数でも報告はできますが、時間帯の工夫は反映されにくくなります。
建物でできる「上げ」と「下げ」
建物の設備には、運転する時間を多少ずらせるものが少なくありません。一般的な例を挙げます。
- 蓄熱・蓄電:氷蓄熱や水蓄熱、蓄電池は、電気を使う時間と熱・電気を使う時間を切り離せる代表的な設備です。余剰時間帯に蓄え、ひっ迫時間帯に放出すれば、上げと下げの両方に効きます。
- ヒートポンプ給湯:貯湯タンクを持つ給湯機は、沸き上げ時間を昼間の余剰時間帯に移すことが考えられます。
- 空調の予冷・予熱と設定緩和:建物の躯体の熱容量を活かし、ひっ迫が予想される時間の前に少し冷やす・暖めておき、その時間帯は設定温度を緩める方法です。断熱性能の高い建物ほど室温が変化しにくく、快適性を保ちやすくなります。
- EV充電・ポンプ類:電気自動車の充電や、受水槽への揚水ポンプなど、時間の融通がきく負荷のスケジュール見直し。
どの設備をどれだけ動かせるかは、建物の用途や運用によって異なります。まずは30分値のデータで、季節・時間帯ごとの使い方を把握するところから始めるのが現実的です。
ZEBとDRの関係
ZEBの評価に使う省エネ計算(BEI)は、年間の一次エネルギー消費量の「量」を評価するもので、「いつ使ったか」は基本的に問いません。そのため、蓄電池や蓄熱の時間シフト効果は、BEIの数字には現れにくい面があります。
しかし、外皮の断熱や日射遮蔽で負荷を小さくし、高効率な設備を備えたZEBは、もともと「使う量が少ない」ぶん、時間をずらす余地を作りやすい建物でもあります。量を減らす省エネと、時間を合わせるDRは、対立するものではなく、組み合わせて効果を高めるものと考えるとよいでしょう。再エネの割合が高まるこれからは、建物が電力系統の「調整役」として果たす役割も大きくなっていくと考えられます。
まとめ
改正省エネ法では、電気を減らすだけでなく「余っているときに使い、足りないときに控える」ことが評価されるようになりました。まずは自社の建物の30分値データを確認し、冬の朝夕のピークと、春秋の昼間の使い方を見比べてみてください。蓄熱・給湯・空調の運転時間を少し見直すだけでも、DRの第一歩になります。設備更新の際には、時間をずらせる機能を持つ機器を選ぶ視点も加えてみてはいかがでしょうか。
想定読者:建物オーナー、自治体の施設担当者、設備管理者、設計者
注:電気需要最適化係数の数値は解説資料に示された例です。実際の報告では、報告対象年度・エリアごとに公表される係数を確認してください。2026年度冬季の需給見通しは2026年3月時点のもので、今後更新される可能性があります。
参照
- 資源エネルギー庁「省エネ法が改正されました(改正省エネ法パンフレット)」:https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/media/data/kaisei_shoene_pamph.pdf
- 近畿経済産業局「省エネ法 eラーニング資料(電気需要最適化)」:https://www.kansai.meti.go.jp/3-9enetai/energypolicy/details/save_ene/e-learning7.pdf
- 資源エネルギー庁「再生可能エネルギー出力制御の長期見通し等について」(2025年6月27日):https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/smart_power_grid_wg/pdf/003_01_00.pdf
- 資源エネルギー庁「2026年度の電力需給見通しについて」(2026年3月27日):https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/pdf/005_08_00.pdf
- 経済産業省「2026年度夏季の電力需給対策を取りまとめました」(2026年5月20日):https://www.meti.go.jp/press/2026/05/20260520001/20260520001.html
- 資源エネルギー庁「電力需給対策」:https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electricity_measures/index.html