朝晩の冷え込みが増え、そろそろ暖房を入れる時期です。「寒い」という声が出ると、まず設定温度を上げたくなります。けれども、同じ室温でも「暖かい部屋」と「寒い部屋」があるのはなぜでしょうか。今回は、体感温度という視点から、暖房の設定を上げる前に確認したい点を整理します。
体感は「空気」だけで決まらない
人が感じる暖かさは、空気の温度だけでなく、周囲の壁や窓、床の表面温度(放射の影響)にも左右されます。簡易的には、空気温度と周囲の表面温度(平均放射温度)の平均に近い値が体感に近いと言われます。つまり、窓や外壁の表面が冷たいと、室温が同じでも体は熱を奪われ、寒く感じます。窓ぎわで寒さを覚えるのは、このためです。
設定を上げるとどうなるか
寒さの原因が冷たい窓や壁にある場合、設定温度を上げても、窓ぎわの不快感は残りがちです。そのうえ、室温と外気温の差が広がるため、壁や窓から逃げる熱も増え、エネルギー消費が増えます。ZEBが外皮(壁・窓・屋根)の断熱を重視するのは、省エネだけでなく、表面温度を室温に近づけて快適性を保つ効果もあるためです。
設定を上げる前の確認ポイント
- 窓まわり:カーテンやブラインドを夜間に閉めるだけでも、窓面からの冷気や放射を和らげられる場合があります。内窓の追加や断熱フィルムは、改修の選択肢です。
- すきま風:出入口やサッシの隙間、換気の給気口から冷たい空気が入っていないか確認します。
- 上下の温度差:暖かい空気は上にたまりやすいため、天井付近が暖かく足元が寒い場合は、気流の調整(サーキュレーターを天井に向けて弱く回し、足元に直接風を当てないなど)が有効なことがあります。
- 吹出しの向きと風速:人に直接当たる冷たい風や、反対に暖気が届かない配置は、設定温度とは別の問題です。
- 室内の温度分布:代表点の温度計だけでなく、寒いと言われる場所の温度も測ると、原因が見えやすくなります。
運用ルールとしてまとめる
暖房の設定温度は、建物や室の用途、利用者の状況によって適切な値が異なります。一律に決めるのではなく、「窓ぎわの対策を先に行う」「寒いという声があった場所を記録する」といった順番を決めておくと、無駄な設定変更を減らせます。なお、高齢者や乳幼児のいる施設、医療・福祉施設などでは、健康面への配慮が最優先です。設定を下げる場合は、利用者の状況を確認しながら進めてください。なお、特定建築物の居室では、建築物衛生法の管理基準(空気調和設備を設けている居室で18℃以上28℃以下)も満たす必要があります。
設定温度は手軽に変えられる反面、根本の原因を覆い隠すこともあります。「どこが冷たいのか」を先に確かめることが、快適さと省エネの両立への近道です。
想定読者:建物オーナー、施設管理担当者、自治体の施設担当者、設計者
注:本コラムは、建築環境工学・省エネ設計の一般的な知見に基づく概説です。個別の建物への適用は、設計者や専門家にご相談ください。
参照
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/ (空気調和設備を設けている居室の温度18℃以上28℃以下〔令和4年4月1日以降〕)