2026年7月、「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律(建築物省エネ法)」の改正法が公布されました。柱は、建物の資材製造から解体までに出るCO₂をまとめて評価する「ライフサイクルカーボン評価」の制度化です。改正により、法律名も「建築物のエネルギー消費性能の向上及び脱炭素化の促進に関する法律」に改められます。これまで省エネ・ZEBの議論は「使うエネルギー」を減らすことが中心でしたが、今後は「建てるときのCO₂」も問われます。2028年度をめどとされる制度開始を前に、建築主・設計者が今から押さえておきたいポイントを整理します。

ライフサイクルカーボンとは ― 「使うCO₂」と「つくるCO₂」

建物から出るCO₂は、大きく二つに分けられます。

  • オペレーショナルカーボン:完成後の運用時に、空調・照明・給湯などでエネルギーを使うことで出るCO₂。ZEBや省エネ基準が主に対象としてきた部分です。
  • エンボディドカーボン:鉄骨・コンクリート・ガラス・断熱材などの資材の製造、運搬、施工、修繕・更新、解体・廃棄の各段階で出るCO₂。このうち竣工までに出る分を特にアップフロントカーボンと呼びます。

この両方を合わせたものがライフサイクルカーボン(LCCO₂)です。国土交通省の検討資料では、国の算定ツール「J-CAT」(建築物ホールライフカーボン算定ツール)のケーススタディ平均として、エンボディドカーボンが約48%、オペレーショナルカーボンが約52%、うちアップフロントカーボンが約22%という数字が示されています。運用時の省エネが進むほど、「つくるCO₂」の比重は相対的に大きくなります。

改正法で何が変わるのか

国土交通省の発表(2026年3月27日閣議決定)と公表されている解説によれば、改正法の主な内容は次のとおりです。

  • 届出の義務化:一定の用途・規模以上の建物を新築・増改築する建築主は、着工の14日前までにライフサイクルカーボン評価の結果等を国土交通大臣に届け出ることが求められます。対象の用途・規模は政令で定めるとされています。検討段階では「5,000㎡以上のオフィスビル」などが例示されており、まずは大規模建築物から始まる見込みです。
  • 建築士の説明・協力:設計を受託した建築士は、評価に必要な事項を建築主に説明するなどの協力を行うことが位置づけられました。
  • 努力義務:建築主、建築士、建設業者、建材メーカーの責務が努力義務として位置づけられ、ライフサイクルカーボン評価の実施は建築主の努力義務とされます。建材メーカーが国のルールに従って製品の炭素排出量原単位を算定した場合は、その旨を建材に表示できるようになります。
  • 第三者認証と表示:国の登録機関による認証制度が新設され、建物の環境性能(ライフサイクルカーボンまたは省エネ性能)について認証を受けると、認証マークを建物や広告などに表示できるようになります。

制度は段階的に進める方針で、検討会の中間とりまとめ案では、制度開始後3年以内をめどに見直しの検討を始め、おおむね5年以内に評価・届出の対象拡大を検討するとされています。現時点で対象外の中規模建物も、将来の対象拡大を視野に入れておく必要があります。

ZEBとの関係 ― 対立ではなく「両輪」

「ZEBにするために設備や太陽光パネルを増やすと、資材のCO₂が増えるのでは」という疑問を持たれるかもしれません。確かに、断熱材の追加や設備の高効率化は、資材製造段階のCO₂を増やす要素になり得ます。

一方で、建物は数十年使われます。運用時のエネルギーを大きく減らすZEBの考え方は、ライフサイクル全体で見ても有効な手段であることに変わりありません。大切なのは、「運用で減らす」と「つくるときに減らす」をセットで考えることです。

たとえば次のような検討は、両方に効く可能性があります。

  • 建物形状・外皮の最適化:日射や通風を活かす計画にすれば、設備容量を抑えられ、資材量も減らせます。
  • 設備の適正容量:過大な機器選定を避けると、運用効率と資材の両面でメリットがあります。
  • 長寿命・更新しやすい設計:修繕・更新時のCO₂(使用段階のエンボディドカーボン)を抑えます。
  • 低炭素な資材の選択:木材・木質化、低炭素型コンクリート、リサイクル材を含む鋼材など。今後は建材メーカーによる排出量データ(EPD:環境製品宣言)の整備が進むと、比較がしやすくなります。

今から準備しておきたいこと

制度開始までは時間がありますが、設計の初期段階でしか効かない対策が多いため、早めの準備が有効です。

  1. 算定に触れてみる:国のJ-CATには目的に応じた簡易・標準・詳細の算定方法が用意されています。計画中の案件で試算すると、どの部位・資材がCO₂の大きな要因かが見えてきます。
  2. 基本設計段階で比較する:構造種別や外皮仕様の比較検討に、エネルギー消費量(BEI)だけでなくCO₂の視点を加えます。
  3. 建材データを集める:採用予定の主要資材について、メーカーが排出量データを公表しているかを確認しておきます。
  4. 施主・テナントへの説明材料にする:ESG投資や不動産評価で、建物の脱炭素性能が重視される場面が増えています。第三者認証の取得は、資産価値の説明にも役立つ可能性があります。

まとめ

建物のCO₂削減は、「省エネで使う量を減らす」段階から、「つくる・直す・壊すまで含めて減らす」段階へ進もうとしています。ZEBで培ってきた外皮・設備の最適化は、そのまま新制度への備えにもなります。計画中の建物があれば、まずは基本設計の段階で一度CO₂を試算し、どこに削減の余地があるのかを確かめることから始めてみてはいかがでしょうか。


想定読者:建築主、設計者、建物オーナー、自治体の施設担当者

注:届出対象の具体的な用途・規模や、ライフサイクルカーボン評価に関する規定の施行日は、今後政令等で定められます。なお、2026年9月11日に施行期日を定める政令が閣議決定され、上位住宅トップランナー制度と先導的な省エネ技術を評価する大臣認定制度は2027年4月1日から施行されます。最新情報は国土交通省の公表資料をご確認ください。

参照