感染症対策をきっかけに、建物の換気の大切さはすっかり定着しました。ただ、真夏に高温多湿の外気をそのまま室内へ取り込めば、せっかく冷やした空気を捨てながら、暑く湿った空気を冷やし直すことになります。この「換気にともなう熱の損失」を小さくするのが、今回ご紹介する全熱交換器(ぜんねつこうかんき)です。ZEB(ゼブ/ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)づくりでも定番の換気設備です。

換気は欠かせない、でも熱の出入り口でもある

室内のCO2濃度やにおい、湿気を適切に保つうえで、外気を取り入れる換気は欠かせません。一方で換気とは、冷暖房した室内の空気を排気として屋外へ捨て、代わりに外の空気を取り込む行為でもあります。つまり、換気量が増えるほど空調の負荷も増えるという裏の顔を持っています。とりわけ日本の夏は、外気が高温なだけでなく湿度も高いため、取り込んだ外気を「冷やす」だけでなく「除湿する」エネルギーまで余分にかかります。

排気の冷たさ・乾きを再利用するしくみ

全熱交換器は、室内から捨てる排気と、外から取り込む給気を、装置の中ですれ違わせる仕組みです。このとき、温度(顕熱=けんねつ)と湿度(潜熱=せんねつ)の両方をやり取りさせるのが「全熱」という名前の由来です。夏であれば、涼しく乾いた室内の排気を使って、暑く湿った外気をあらかじめ冷やし・除湿してから室内へ送り込みます。冬はその逆に、暖かい排気の熱で冷たい外気を予熱します。こうして、換気のたびに捨てていた熱の一部を回収し、空調の負担を軽くするわけです。温度だけを回収する顕熱交換型もありますが、蒸し暑い日本の夏には、湿気も一緒に扱える全熱型が向く場面が多くなります。

上手に活かすためのひと工夫

効果を引き出すには、運用の設定も大切です。春・秋の中間期や夜間など、外気のほうが快適な時間帯は、熱回収がかえって邪魔になります。多くの機種に備わるバイパス機能で外気冷房に切り替えましょう(前回ご紹介したナイトパージとも好相性です)。また、室内のCO2濃度に応じて換気量を自動で調整すれば、人の少ない時間帯の過剰な換気を防げます。フィルターや熱交換素子(エレメント)は目詰まりで性能が落ちるため、定期的な清掃・点検も欠かせません。「うちは新築ではないから」という建物でも、換気設備を更新するタイミングで全熱交換型を選ぶ、という現実的な入口があります。

換気は止められないからこそ、その熱をむだにしない工夫がじわりと効いてきます。設備の更新や改修は、建物の性能を一段引き上げる絶好の機会です。エネルギー計画や換気まわりの省エネのお悩みは、お気軽にご相談ください。


想定読者:建物オーナー、自治体の公共施設・脱炭素ご担当者、設計者

注:本コラムは一般に公開されている公的情報に基づく概説です。全熱交換器の効果は、地域の気象条件や建物の用途・換気量・設備構成によって異なります。導入の際は個別にご検討ください。

出典・参考リンク

  • 環境省「ZEB PORTAL(ゼブ・ポータル)」 https://www.env.go.jp/earth/zeb/