屋上で白い蒸気を上げている冷却塔(クーリングタワー)。中央熱源の建物では欠かせない設備ですが、日ごろ意識されることは多くありません。冷房が一段落するこの時期は、冷却塔まわりを省エネと衛生の両面から点検しておくのに適したタイミングです。
冷やしているのは「蒸発」
冷却塔は、冷凍機が捨てた熱を大気に逃がす装置です。仕組みは打ち水と同じで、循環する冷却水の一部を蒸発させ、そのときに奪われる熱(気化熱)で残りの水を冷やします。
ここで効いてくるのが湿球温度です。温度計の球部を湿らせた布で包んで測った温度のことで、空気の乾き具合、つまり「水の蒸発しやすさ」を表します。冷却塔が到達できる下限はこの湿球温度であり、標準的な冷却塔は「外気湿球温度+5℃」程度になるよう設計されています。外気温が同じ30℃でも、じめじめした真夏と空気の乾いた秋とでは実力が違うということです。
カタログの「32℃」は表示のための条件
冷凍機の仕様書には冷却水入口32℃・出口37℃という条件が書かれています。これはJISが定めた遠心冷凍機(ターボ冷凍機)の標準定格条件で、各社の能力を同じ土俵で比べるための値です。その温度で運転しなければならない、という意味ではありません。
冷却水の入口温度を下げると、冷媒を液体に戻す(凝縮する)側の圧力が下がり、圧縮機の仕事が減ります。つまり冷凍機のCOP(成績係数=出した熱量を消費エネルギーで割った効率の指標)が上がります。中間期や冬にも冷房需要が残る建物ほど、効果は大きく出ます。
ただし、下げ方には限度があります。
- 冷凍機側の限界:冷却水が低すぎると凝縮圧力が下がり、冷凍サイクルが不安定になることがあります。下限値は機種ごとに異なるため、メーカーの資料で確認が必要です。
- 冷却塔側の限界:前述のとおり、外気湿球温度より下には冷やせません。
- 全体で見る:冷凍機の電力が減る一方、冷却塔ファンの電力は増えます。試運転時にシステム全体の消費電力で確認するのが確実です。
設定を日々こまかく変えるのは現実的ではありません。運用形態に応じて月ごと、あるいは半月ごとに設定値を見直す進め方が勧められています。
清掃は、衛生管理であり性能回復でもある
冷却塔は建築物衛生法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)の管理対象です。同法施行規則では、冷却塔と冷却水について使用開始時および使用開始後1か月以内ごとに1回、汚れ・閉塞の状況を点検して必要に応じ清掃・換水を行うこと、冷却塔・冷却水の水管・加湿装置の清掃を1年以内ごとに1回行うことが定められています。レジオネラ属菌の指針値は100CFU/100mL未満です。
衛生上の要請ですが、省エネの面でも同じ方向を向いています。充填材にスケールやスライムが付けば水と空気の接触が悪くなり、熱が抜けません。冷却水温が上がれば冷凍機の効率はそのまま落ちます。運転を終える時期の洗浄は、翌シーズンの立ち上がりにも効きます。
なお省エネ計算の標準入力法(様式2-5 熱源)でも、熱源機とあわせて冷却塔のファン消費電力や冷却水ポンプ消費電力を入力します。冷凍機本体の効率だけでなく、この搬送側の動力も一次エネルギー消費量に効いてきます。
まとめ
冷却塔は湿球温度に支配される装置で、季節が変われば実力も変わります。冷房を止めるこの時期に、清掃の計画と冷却水温度の設定、両方を確認してみてください。
想定読者:建物オーナー・施設管理ご担当者、自治体の脱炭素ご担当者、設計者
注:本文の温度・頻度は一般的な規定値および設計上の目安です。具体的な設定値・下限値は機器メーカーの技術資料により、衛生管理の詳細は所管保健所の指導によりご確認ください。
参照
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21 省エネQ&A「冷凍機の冷却水温度低減による省エネとは?」(2020年11月11日、エネルギー管理士 本橋孝久):https://j-net21.smrj.go.jp/solution/qa/energyeff/EQ0010.html (JIS遠心冷凍機の標準定格条件 冷却水入口32℃・出口37℃、冷却塔の設計目安「外気湿球温度+5℃」、冷凍機側下限、冷却塔ファン動力とのトレードオフ、設定変更頻度)
- 建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則 第3条の18(空気調和設備に関する衛生上必要な措置)
- 横浜市「冷却塔の維持管理について」(2026年3月9日更新):https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/seikatsu/kaiteki/legionella/legicoolingtower.html (運転開始前の化学的洗浄、月1回の清掃・点検、レジオネラ属菌指針値100CFU/100mL未満=第5版レジオネラ症防止指針)
- 国立研究開発法人建築研究所「エネルギー消費性能計算プログラム(非住宅版)」標準入力法 様式2-5(熱源)の入力項目:https://building.app.lowenergy.jp/
- 関連コラム「熱源の部分負荷運転と台数制御」(2026年8月31日)
- 関連コラム「夏を越えた空調の点検と清掃」(2026年9月8日)