省エネ改修の相談は、たいてい「どこから手をつければいいのか」で止まります。光熱費が高いことは分かっている。ただ、原因が空調なのか、照明なのか、そもそも運用の問題なのかが切り分けられない。毎日その建物にいる人ほど、現状が当たり前になっていて気づきにくいものです。国の事業として、専門家に見てもらう費用の大部分を公費で負担する仕組みがあります。秋は、この診断を申し込むのに具合のよい時期です。

省エネ診断とは何か

資源エネルギー庁の「中小企業等エネルギー利用最適化推進事業費(地域エネルギー利用最適化・省エネルギー診断拡充事業)」は、登録された診断機関の専門家が工場・ビル・店舗を訪問し、エネルギーの使われ方を調べて改善項目を提案する制度です。事務局は一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)が務めています。

費用の大半は国が負担し、受診する側は定められた自己負担額を診断機関に支払います。令和7年度補正事業(2026年度実施分)では、設備単位で見てもらう「ウォークスルー診断(設備単位プラン)」が1設備あたり6,006円(税込)、事業所全体を見る「工場・事業所全体プラン」が規模に応じて16,016円〜51,051円(税込)とされています。専門家に半日から一日入ってもらう内容としては、かなり低い水準です。

三つのメニューを目的で選ぶ

用意されているのは大きく三つです。

ウォークスルー診断は、現地を歩いて設備と運用を見る、いちばん基本のメニューです。設備単位プランでは空調、照明、ボイラ・給湯器、受変電設備、デマンドなどから対象を選べます(最大2設備まで組み合わせ可)。「何から手をつけるべきか分からない」段階では、まずこれです。

IT診断は、電力・温度・流量などのセンサーを取り付けて実測し、データで分析するものです。上限220,000円(税込、実施内容により変動)。設備投資を含む中長期の計画を立てたいとき、あるいは「どの時間帯にどの設備がどれだけ電力を使用しているのか」を数値で把握したいときに適しています。

伴走支援は、診断のあとを継続的に支えるメニューで、設備更新の仕様検討、効果検証、補助金申請のサポートまでを含みます。上限51,051円(税込)。診断を受けたはいいが報告書が机に載ったまま、という事態を避けるための受け皿と考えると分かりやすいと思います。なお伴走支援は、SIIが指定する診断を受診済みの事業者が対象です。

誰が対象になるか

原則は中小企業基本法上の中小企業者です。業種ごとに資本金と従業員数の基準が定められており(製造業等なら資本金3億円以下または従業員300人以下、小売業なら5,000万円以下または50人以下など)、いずれかを満たせば該当します。

見落とされやすいのが、もう一方の入口です。会社法上の会社に該当しない事業者は、前年度または直近1年間のエネルギー使用量(原油換算)が1,500kl未満の事業所であれば対象になり得ます。学校法人、医療法人、社会福祉法人、各種団体などがここに当たります。「うちは会社ではないから関係ない」と判断してしまう前に、要件を一度確認する価値はあります。

なぜ秋に申し込むのか

理由は単純で、診断から改修までのリードタイムが長いからです。申込のあと日程調整と契約があり、受診して、報告会で提案を受ける。ここまでで数週間から数か月を見ておく必要があります。年明けに動き出すと、来年度の予算要求にも、年度初めの補助金公募にも間に合いません。

補助金の側のカレンダーも動いています。省エネ・非化石転換補助金は2026年度の3次公募が8月20日〜9月28日で受付中です。次の機会を狙うなら、診断で改修の内容と効果の見込みを固めておく時間が要ります。

加えて、この診断は国の単年度事業として実施されているものです。年度ごとに受付期間が定められ、予算の消化状況によって早く締め切られることもあります。「いつでも受けられる」制度ではない、という点は押さえておいてください。受付の状況は公式サイトでご確認ください。

診断結果は答えではなく材料

一点、実務上の注意を申し添えます。この診断は設備と運用を見るものであり、外皮――断熱や窓、日射の入り方――は、原則として対象設備の一覧に含まれていません。ボイラや空調機の効率を上げても、熱が窓から出入りし続けていれば、効果は頭打ちになります。ZEB化まで視野に入れるのであれば、診断で得た設備側の情報に、外皮と創エネ(太陽光発電などの導入)の検討を足して、建物全体として組み立て直す作業が別途必要になります。

逆に言えば、診断報告書は「建物の現況を第三者がまとめた資料」として非常に使い勝手がよいものです。予算要求の根拠にも、設計者との打ち合わせの出発点にも、そのまま使えます。

まとめ

省エネ改修が進まない理由の多くは、意思ではなく材料の不足です。数千円から数万円の自己負担で、専門家が現況を整理してくれる制度が動いています。対象になるかどうかの確認と、申込の可否を調べるところまでは、今日にでも始められます。診断結果をどう建物全体の計画につなげるかについては、当社でもご相談を承っております。


想定読者:中小企業の経営層・総務・施設ご担当者、学校法人・医療法人・社会福祉法人の施設ご担当者、建物オーナー、設計者

参照元:

  • 省エネ診断ポータル「設備を診断して光熱費削減 省エネ診断」(令和7年度補正 中小企業等エネルギー利用最適化推進事業費/地域エネルギー利用最適化・省エネルギー診断拡充事業、事務局:一般社団法人 環境共創イニシアチブ)https://shoeneshindan.jp/ 、料金プラン・支援対象者・メニュー詳細は https://shoeneshindan.jp/guide/ (2026年9月2日閲覧)
  • SII「令和7年度補正 地域エネルギー利用最適化・省エネルギー診断拡充事業」 https://sii.or.jp/shindan07r/ (2026年9月2日閲覧)
  • SII「省エネ・非化石転換補助金 2026年版特設サイト」3次公募 公募期間8月20日〜9月28日 https://syouenehojyokin.sii.or.jp/ (2026年9月2日閲覧)

※金額はいずれも税込で、令和7年度補正事業における表示額です。制度の内容・受付状況・予算枠は変更されることがあります。対象要件の判断および申込にあたっては、必ず上記の公式サイトおよび診断機関にご確認ください。本稿は一般に公開されている情報に基づく解説であり、個別の建物についての診断・助言ではありません。