改修のご相談をいただいたとき、私たちが最初にお聞きするのは「竣工図はお手元にありますか」です。ここで書類が出てくる建物と、出てこない建物とでは、その後の進み方がまるで違います。今回は、地味ですが効き目の大きい「書類を残す」という話をします。
情報がないと、見積は高くなる
図面や機器の情報がない建物では、まず現地調査から始めることになります。天井を開けて配管の径を確かめ、機器の銘板を一台ずつ写真に撮り、分電盤の系統をたどる。この作業に費用と時間がかかるうえ、断熱材の厚さのように壊さないと分からない部分は、どうしても安全側の想定を置くことになります。安全側の想定は、そのまま「余裕を見た機器容量」「余裕を見た工事費」として見積に載ります。
つまり、情報が足りない分は、調査費と割増しの両方で支払うことになります。
残しておきたい五つ
網羅的に保管するのは大変ですから、優先度の高いものに絞ります。
1. 竣工図(意匠・構造・設備) ― 設計図ではなく、実際に建った状態の図面です。工事中の変更が反映されているかどうかが分かれ目になります。
2. 設備機器リスト(型番入り) ― 空調室外機、熱源、ポンプ、換気設備、変圧器などの型番と設置年。型番さえ分かれば、メーカーの仕様書から能力も消費電力も後から追えます。
3. 省エネ計算書と、その入力データ ― 適合性判定やBELS取得の際に作成した一次エネルギー消費量の計算書です。結果の紙だけでなく、計算に使った入力ファイル一式を残してください。改修時の再計算は、ゼロから起こすのと既存データを直すのとで手間が何倍も違います。
4. 試運転調整記録・自動制御の設定表 ― 設計者がどんな運転を想定していたかが書かれた唯一の記録です。運用が設計と食い違ってきたときに立ち返る先になります。
5. 毎月のエネルギー使用量 ― 電気・ガス・水道の検針値。これだけは、いまこの瞬間から誰でも始められます。
紙で持つより、探せる形で
書類は「ある」だけでは足りず、「探せる」必要があります。担当者が代わっても十分間で見つかる状態かどうかが基準です。PDFにして共有フォルダへ入れ、「建物名/年度/種別」といった単純な規則で並べておく。凝った仕組みは要りません。引き継ぎのときに場所を伝えられるかどうかが、実質的な保管の条件です。なお、法令上の保存が必要な書類の年限は根拠法令や所管により異なりますので、個別には所管行政庁や評価機関にご確認ください。
いま何もない建物は
古い建物では、書類が残っていないことのほうが普通です。その場合は、遡って探すより、これから積み上げるほうが現実的です。毎月の検針値を記録する、設備を更新するたびに型番と施工写真を一か所に集める、次に省エネ計算をする機会があれば入力データを必ず受け取る。数年でずいぶん違ってきます。
設計時の計算値と実際の使用量を比べられるのも、記録が残っている建物だけです。弊社のZEBナレッジ「ZEB実績データ分析」では、公開データをもとに設計値と運用実績の関係を確認できますが、自分の建物で同じことをするには、自分の建物の運用データが要ります。書類を残すことは、次の改修の準備であると同時に、いまの建物の使い方を確かめる材料を用意することでもあります。
想定読者:建物オーナー、施設管理ご担当者、自治体の営繕ご担当者
参照元:環境省「ZEB PORTAL」(https://www.env.go.jp/earth/zeb/)。書類の法定保存年限は法令・所管により異なるため、本コラムでは具体の年数を記載していません。