2026年9月4日、国土交通省は「国土交通省インフラ分野のAI実装に向けた取組方針」と「建設分野におけるフィジカルAI戦略(中間とりまとめ)」を公表しました。AIで何ができるかよりも、データをどう扱い、誰が判断の責任を持つかに多くの紙幅が割かれています。施設を発注・管理する立場、設計を担う立場から押さえておきたい点を整理します。
何が公表されたのか
取組方針は、AIを現場で働く人の能力を拡張し、生産性向上を加速する基盤と位置づけています。対象は工事現場に限らず、計画・調査・設計・発注などの内業を含む業務全体です。柱は、直轄事務所などで発注者自らがAIを徹底活用すること、産学官でデータを連携すること、フィジカルAI(センサで現場を認識し、AIの判断に基づいて機械やロボットが動くシステム)を導入することの3つです。得られた知見は地方自治体や民間企業へ展開するとしています。
あわせて公表されたフィジカルAI戦略は、機械施工、構造物点検、災害調査など重点8分野を挙げ、短期は2030年頃、中長期は2040年頃を目標時期として想定しています。
なお、いずれも取組の方向性を示した文書で、新たな義務を直ちに課すものではありません。名称のとおり主な対象はインフラ分野であり、建築物の営繕・設計業務にどこまで及ぶかは、今後の具体化を見る必要があります。
「AI学習への利用範囲と条件」がルール化される
実務上とくに注目したいのは、機密性・個人情報・知的財産の観点から、データをAIの学習に使ってよい範囲と条件を明確にしたルールを整備するとしている点です。これまで成果物や現場データの扱いは主に契約や仕様書の秘密保持条項で決まっており、「AIの学習に使えるか」まで書かれていることは多くありませんでした。
発注者側は、委託契約や特記仕様書で、提供する図面や点検データをAIの学習に使ってよいかを明示できているか。受注者側は、業務で使う生成AIサービスが入力内容を学習に使うかどうかを、提供事業者の規約やデータ処理契約(DPA:提供事業者が預かったデータをどう扱うかを定める契約)で確認できているか。国のルールが示される前でも、この二点は今から点検できます。
関係者が多いほど、つなぎ目が弱点になる
方針は、発注者・元請・下請と事業者が重層的に関わるインフラ分野の特性を挙げ、事業者間でデータを連携する過程の情報漏えいや不正アクセスに対応するセキュリティ体制を整備するとしています。AI導入で共有されるデータが増えれば、共有先と権限の管理が要になります。誰がどのデータにアクセスでき、業務終了後にどう削除・返却するのか。AIの有無にかかわらず、データ共有のルールを文書で確認しておくことが出発点です。
最終判断と説明責任は人に残る
方針は、人が担い続ける価値として、方向付け・問題提起に加え、「最終的な価値判断・意思決定や住民・社会への説明責任」と、AIの動作を継続的に監督する姿勢(Human-in-the-Loop)を挙げています。設計照査や積算支援にAIを使う場合も、結果を確かめ、根拠を説明できる体制が前提です。AIを使った工程を記録し、照査の手順に人の確認を組み込んでおくことが、発注者への説明にも役立ちます。
想定読者:建物オーナー、自治体の営繕・施設担当者、設計者、建設コンサルタント
注:本コラムは公開されている法令・通知・ガイドライン等に基づく概説です。個別の業務やシステムへの適用は、契約条件・仕様書・発注者との協議によります。
当社の生成AIの使い方と、お預かりした情報の扱いは「AIの利用について」でご説明しています。
参照
- 国土交通省「報道発表資料:『国土交通省インフラ分野のAI実装に向けた取組方針』及び『建設分野におけるフィジカルAI戦略』(中間とりまとめ)の策定」令和8年9月4日 https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001361.html (公表日、2文書の名称、AIを「能力を拡張させ生産性向上を加速」する基盤とする位置づけ)
- 国土交通省「国土交通省インフラ分野のAI実装に向けた取組方針」令和8年9月 https://www.mlit.go.jp/tec/content/002020365.pdf (p.9:人が担い続ける価値〔方向付け・問題提起、最終的な価値判断・意思決定や説明責任、Human-in-the-Loop〕/p.10:地方自治体・民間企業への展開/p.14:データのAI学習への利用範囲と条件のルール整備、事業者間データ連携における情報漏洩・不正アクセスに対応するセキュリティ体制、汎用AIと設計照査・積算支援等の特化型AIの相互運用)
- 国土交通省「技術調査:インフラ分野のDX」(取組方針の本文・概要の掲載ページ、公表日 令和8年9月4日) https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000073.html
- 国土交通省「『建設分野におけるフィジカルAI戦略』(中間とりまとめ)概要」 https://www.mlit.go.jp/tec/content/002020345.pdf (フィジカルAIの定義、重点8分野、短期2030年頃・中長期2040年頃の目標時期)
- 国土交通省「建設分野におけるフィジカルAI戦略(中間とりまとめ)」令和8年9月 https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/content/002020333.pdf
- 取組方針の柱(直轄現場での活用、産学官のデータ連携、フィジカルAI導入)および対象業務の範囲は、上記報道発表添付資料(https://www.mlit.go.jp/report/press/content/002020388.pdf)による。
- 確認日:2026年10月5日